『幻想魔境奇譚』
偽書[香津宮綺譚] から発売されました。
濃密な伝奇のように、読み応えのある作品でしたね。

<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
選択肢もなく、一本道になります。
あらすじ・・・
199X年、大西洋――
新婚旅行中に悲劇の事故に見舞われた"わたし"は、
妻とともに嵐の夜の海へと
"稲妻型の痣"のある腕によって突き落とされてしまう。
目覚めるとそこは、天国さながらの無人島であった。
ここでふたり、新たな生活を迎えようという矢先に、
最愛の妻が病死してしまう。
楽園の終焉を悟り、島をあとにどことも知れぬ海へと
漕ぎだしたわたしを救ったのは、
一艘の船と謎の考古学調査隊であった。
そこにあの"稲妻型の痣"をもつ人物を見つけたわたしは、
"人魚"を求めてやってきたという彼らとともに、
わずかな原住民が暮らす未開の島
「ヤム・ラ・カヌ」へと向かう。
そこでわたしを待ち受けていたものは、
あまりに数奇な運命だった。
<感想>
本作は、妻を亡くすきっかけを作った者へ復讐を誓うという、
いわゆるサスペンスものであり、
同時に大西洋の島を舞台にした、
ホラー・伝奇ものでもあります。
もっとも、主となるのは伝奇であり、
伝奇が好きな人に、より向いた作品といえるのでしょう。
ところで、ノベルゲームの大半はエロゲですが、
エロゲにおける伝奇作品という場合、
そのほぼ全てがラノベ感覚の伝奇になります。
・・・いや、こういうと、少し語弊があるでしょうか。
PC88やPC98時代の伝奇作品は違うぞと言われると、
そうですねと答えることになりますから。
しかし、例えば、その作中において、
「あらゆる萌え要素が詰められている」と評された『痕』以降は、
エロゲの伝奇作品とは、ラノベ路線の内容であり、
その点に異論のある人はいないと思います。
本作はノベルゲーであり、伝奇作品ではあるのですが、
ラノベ路線の作品ではありません。
一般小説の伝奇作品を読んでいるのと同じ感覚であり、
その意味において、近年の他の伝奇ノベルゲーと、
完全に一線を画しているのです。
そのため、本作を楽しめるか否かは、
伝奇が好きか否かというだけではなく、
もっと限定して一般小説の伝奇が読みたいのかと、
そういった観点が重要なように思うのです。
すなわち、ラノベ伝奇が大好きで、
それを模したラノベ伝奇風エロゲが好きな人だと、
本作は地味で良いと思えない可能性も十分にあるでしょう。
逆に、一般小説の伝奇は好きだけど、
ラノベは合わないという人の場合だと、
キャラ重視な伝奇エロゲの大半は楽しめないのでしょうが、
本作は楽しめる可能性が非常に高いです。
いずれにしろ、本作は、一般小説を含めれば、
ジャンルとして特に珍しいものではないかもしれませんが、
近年のゲームとして限った場合には、
非常に珍しい内容ということですね。
したがって、ある意味ではオンリーワンなのですが、
他方で、どうしても比較対象が一般小説となってしまい、
その意味ではハードルが高くなってしまうのです。
もちろん、本作は、十分に面白い作品です。
体験版で楽しめる序盤こそ、
ややゆっくりな展開が続きますが、
章が進むにつれ、次第に盛り上がっていきますし、
読み応えはありますからね。
「私はシナリオ重視です」っていう人はよく見かけますが、
本当にシナリオ重視であり、かつ伝奇が好きならば、
本作を迷わずやれよと言いたくなるレベルでもあります。
ただ、一般小説の中の面白い伝奇と比べ、
なおかつそれを凌駕する面白さがあるかとなると、
題材的にやや王道っぽくもある本作には、
そこまでの突き抜けたものはなかったのかなと。
もちろん、本作は小説ではなくゲームです。
したがって、小説にないプラスアルファがあるか、
そこが大事になってくるのでしょう。
とはいえ、本作にゲーム性はないですし、
音声もないことから、
グラフィックの占める割合が他よりも高くなってきます。
そのグラフィックなのですが、
本作は二次元の絵もあるものの、
背景とかで実写を多用しています。
この実写を含めたグラフィクについて、
確かに下手な二次絵よりはセンスが良いとも思えますし、
演出も凝っている部分はあるのですが・・・
全体的にテキストから浮いているようにも見えるわけでして。
いや、テキストが自己完結しすぎているのかな・・・
いずれにしろ、絵やテキスト等全体でというよりは、
とにかくテキストを読んでいるという印象が強く、
演出が凝っているわりには、
それほど相乗効果は感じられなかったですかね。
<総合>
総合では良作としておきます。
全体として考えると、相乗効果が少ないこともありますし、
また、もう一つ突き抜けたものがないのかなと。
他方で、ストーリー・テキストだけならば、
相対的に十分名作級の作品だと思いますので、
その点だけを重視する人には、
ぜひやるべきといえるオススメの作品だと思いますね。
ランク:B(良作)

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