『屍姫と羊と嗤う月』

『屍姫と羊と嗤う月』

『屍姫と羊と嗤う月』は2003年にWIN用として、
BaseSonから発売されました。

ノベルゲーに対するスタンス次第で印象が変わるゲームなのでしょうね。

屍姫と羊と嗤う月

<概要>


BaseSonはデビュー作が『ONE2』でしたので、
完全オリジナルはこの作品が初という説明になっていました。

商品紹介は以下の通り。
4人の少女との出会いから過酷な運命に晒されることになった、
主人公の苦悩と決意を描いた学園伝奇AVG。
物語は平穏無事な日常に、非日常的な凄惨な凌辱と、
異形なる化け物同士の戦いが絡み、奥深くもドラマティックに展開する。
主人公は、そうした非日常の中で、ヒロイン達との絆を深め合い、
時に身を焦がすような恋を、時に胸を締め付けられるような切なさを、
時に心を引き裂くような哀しみを、そして言いようの無い絶望を味わっていく。
そこに希望は存在するのか? それはアナタ自身が見つけて欲しい。

<ストーリー>


一言で説明するとなると、やっぱり学園伝奇とか伝奇恋愛とかとなるのでしょう。
しかし本作は、必ずしも1つの方向性を持った作品ではありません。
ヒロインは4人いるのですが、ヒロインごとに雰囲気ががらっと変わるのです。
ある者は伝奇であり、ある者は鬱系のシナリオが展開されます。
他にもギャグだったりエロ重視だったりと、皆方向性が異なるのです。

ここまでは「客観的事実」。
面白いなと思うのは、むしろその事実に対するユーザーの捉え方なのでしょう。
昔、昔と言ってもいつだよってなりそうですが、
ここではあえて一旦昔とぼかして書きますと、
昔はいろんな要素が含まれた作品が多かったです。
昔のユーザーの話をみてみると、1つの作品からいろんなジャンルに触れられた、
そしてそこから次へのステップアップにつながったと懐かしがるのです。
私も古いユーザーになってしまったので、その意見は非常に良く分かるのです。
1つの作品内にいろんな路線がある。
中には好きな路線もあれば、苦手に感じたものもある。
好きな物を発見できれば、その路線が濃い別の作品に手を出す。
少し経って、当初苦手に感じた要素を受け入れる寛容性が生まれ、
良さを理解できるようになり、新たな路線に目覚めていくと。
本作はまさしくそういう作品であり、伝奇・鬱・ギャグ・エロとばらばらです。
伝奇が合うなと思ったら、他の伝奇系を探してみるのも良いでしょう。
鬱が苦手だなと思っても、こういうのがあると知ることで、
もしかしたら何年か先に好きになっているかもしれません。
その時には、目覚めるきっかけになったということもあるでしょう。
最近は誰にも嫌がられるような部分のないぬるい作品が初心者向けとされますが、
私はむしろどの方向性にもステップアップできる、
こういうのこそが初心者向けだと思うのですけどね。
何れにしろ、この手のごった煮な作品は次第に減っていくわけで、
それを嘆いて去っていくユーザーを何人も見ました。

つまり昔のユーザーの多くは、いろいろ混ざったような、
ごった煮な作品を好んでいたのです。
しかし、ここで先ほどぼかした昔の内容に入っていきますが、
PC98時代までは1つの物語の中に様々な要素を織り込んでいたのが多いのに対し、
WIN95以降の90年代後半は個別ルートの作品が増え、
キャラごとに異なるジャンルという作品が多かったように思います。
つまりごった煮の意味合いが少し異なるわけですね。

前者と後者のどちらが優れているかは一概に決められませんが、
何かのテーマという観点からは、1つの物語内に上手く織り込んである場合、
それは密接不可分として無駄には感じられないでしょう。
しかし完全別個のルートとなってしまうと、
そのルートはテーマとの関係で不要だよねと思われても仕方ありません。
私はヒロインごとに物語のジャンルが変わる作品も好きなのですが、
必要性が弱いということは感じていました。
だから90年代後半的な「ヒロインに従属したシナリオ」というものに対し、
中にはそれをシナリオ重視になっていったとありがたがる人もいたのですが、
個人的には逆にシナリオは退化していったのではと思ってしまうのです。

90年代後半に入りシナリオ重視になっていったと言われると、
個人的にはちょっと疑問に感じてしまいます。
理由は幾つかあるのですが、その中の1つがこの点であり、
今なら少しは分かってもらえるのではないかなと。
「今なら」というのは、ゼロ年代以降に入ってきた世代は、
すっかりノベルゲーに染まった世代でもあり、
ADVを読み物として捉えているように見えます。
この作品のテーマは~とか、テーマからするとこのルートは不要だの弱いだの、
そういう言い回しを見かける機会も増えていきましたしね。
小説的な視点で見る場合、テーマと関係ないシナリオが多数含まれていると、
まとまりのないシナリオであるとか、
無駄の多いシナリオと感じられやすいでしょう。
そういう視点で考えるユーザーには、本作のようなごった煮系は、
まさにまとまりのない作品に見えると思います。

ただ、本作の評価として単にまとまりがないとしてしまうのは、
少し視野が狭すぎるのかなと思ってしまいます。
上記のように昔はこういう系統も好まれていたのですから。
昔のユーザーからすると、逆に今の同系統で纏められた作品の方が、
意外性も刺激もないつまらない作品に見えてしまいかねないですしね。
こういう系統もあるのだと理解した上で、
同系統の他作品と比べてどう感じるかなら分かるのですけれど。

この手の作品の捉え方が変わっていったのはゼロ年代に入ってからで、
細かく限定するなら2002年辺りで、もう変わっていたのかなと。
本作は2003年の発売ですから、
当時の新しいユーザーには理解されにくい状況になっていたように思います。
他方でこういう系統が好きなユーザーも、
好きな作品がなくなったと離れていったケースを多数見ましたので、
本作に気付かずじまいということもあったのかなと。
もちろんこの手が好きで気付けた人の中にははまった人もいるでしょうが、
気付いた上で同系統の他作品と比べて特に印象に残らないというような、
私みたいなのもいるでしょうし、根本的に埋もれやすい作品なのでしょうね。

<ゲームデザイン>


ジャンルはノベル系のADVになります。

システムでなくレイアウトの問題になりますが、
本作はテキスト欄が8行ほどの表示となっており、
典型的なADVより広めになっています。
読ませることを意識した構図なのでしょうが、
エロゲはやっぱり絵が大事だろうと考えると、
ちょっと見にくく感じてしまいます。
この辺も90年代後半的なのかなと。

<総合>


90年代後半のWINゲー的な構造の作品が、
ユーザーの多数派の意識が変わった2003年に出た。
古いと言ってしまえばそれまでなのだけれど、
こういうのが好きで逆に最近のが嫌でやめたって人もいるわけでして。

個人的には本作そのものは普通に楽しめたって程度なのですが、
こういう作品に対しての姿勢そのものが昔と今とで異なるということで、
何かしらの考えるきっかけになれば良いなと思いますね。

ランク:C-(佳作)

屍姫と羊と嗤う月

関連するタグ WIN /ADV /ノベル系 /


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