同級生
エルフから発売されました。
elfの代表作であり、蛭田作品の最高傑作ですね。
ADVとしての様々な要素が込められた作品でした。

<概要>
ある人はマップ内を移動させるのが新鮮だったと言い、
ある人は時間の概念を導入したのが斬新だったと言い、
ある人はここからストーリーを楽しむアダルトゲームが誕生したと言う。
プレイヤーの知識や経験、或いは何に興味を持つかでも、
全然異なった景色を描いてみせた本作。
その細かい点に関しては後述しますが、
何れにしろ様々な点で怪物ソフトだったのであり、
アダルトゲーム史上に燦然と輝く希代の名作と言えるのでしょう。
詳細は後述しますが、基本的にはポイント&クリック式のADVであり、
主人公の高校3年の夏休みを描いた作品になります。
<ゲームシステム>
つい省略してしまうのが私の悪いところなのですが、
有名作と言えどもまずは基本的なところから入るべきでしょうか。
『同級生』は先負町を舞台にしたADVであり、
RPGのように街がマップで表現されています。
その中を自由に行動し、時には出会った人と会話をしたり、
画面内のキャラや場所など、あちこちをマウスでクリックして、
返ってくる反応を楽しんだりする作品でした。
もちろん会話する人の中には、10人を超える多数のヒロインもいますので、
ナンパしてフラグをきちんと回収できれば結ばれることになります。
作品内には時間の概念があり、何か行動すれば時間が進行します。
期間は夏休みだけで、その期間が過ぎれば終わってしまいます。
だから基本的には時間を管理することが肝となる、
時間との勝負になる作品でもありました。
ところで、『同級生』について語る場合、
これらシステムの話は絶対に避けて通れないのでしょう。
もっともこの作品、基本システムとしての独自性というのは案外少ないです。
何かしら、先駆けと呼べる物がありますので。
しかし、それらが幾つも重なり合う事で、
全く新しいジャンルであるかのような錯覚をおぼえたものです。
これを単一のジャンル名で呼ぶ事は難しい気がしますね。
そもそもADVというジャンル自体が、
初代『Adventure』のようなゲームだというならば、
もう同級生系ADVで良いような気がします。
さて、その複雑な『同級生』のシステム及びその構成要素について、
以下で分解してみましょう。
1)移動システム・・・RPGのごとく画面上のキャラを直接に動かす物です。
ADVでの使用例を見てみますと、
海外では『キングスクエスト』(85年)があり、
国内では『ファイナルロリータ』や、
『消えたプリンセス』(86年)とかがあります。
2)時間の概念・・・何か行動をするたびに、ゲーム内の時間が経過します。
これは『アグニの石』や『殺意の階層』(共に88年)が先駆けですね。
また、登場するキャラが時間に応じて移動するって意味でも、
『アグニの石』や『インヴィテーション』(89年)があります。
そしてアダルトゲームでも、実は先に『毎日がえっち』(90年)があります。
3)P&C(ポイント&クリック)・・・いわゆる画面クリック。
海外での主流方式がこれです。
国内では海外からの移植作品として『マンホール』(90年)があります。
また国産に限定した場合でも、エルフが『elle』(91年)で導入し、
『DEJA2』(92年)とかにも使用されてます。
またマウスを使用しない形式も含めれば、80年代からあります。
4)ナンパゲーム・・・これはシステムではなく中身の話ですが。
ナンパゲーとしては、『TOKYOナンパストリート』(85年)があります。
5)恋愛ゲーム・・・これも中身の話。
真面目に恋愛を扱っているゲームとしては、
少なくとも既に『卒業写真/美姫』(92年)とかがありました。
基準を広げれば80年代にもあったと言えるでしょうしね。
6)キャラごとの個別ルート・・・マルチエンドの派生なんですけどね。
今のエロゲではある意味必須の、
ヒロインごとにエンドが用意されている物です。
これについても、アンジェの『KISS』(92年)があります。
7)マルチフラグ・・・あっちのルートでたてたフラグの影響が、
別ルートのフラグにも影響する物。
一方を進めなければもう一方も進めないって意味では、
『ブルートレイン殺人事件』(89年)があります。
もっとも何本ものシナリオが同時進行し、
一方のフラグの影響でもう一方の結末に影響を及ぼすという意味では、
このゲームが初でしょうか。
以上のように『同級生』のシステムは、
幾つもの要素に分解して考えることができます。
※補足
尚、この記事は以前に書いたものであり、
不足している部分や省略した部分も多いです。
システム的な構成や意義に関しては、「アダルトゲームの歴史 1992年 その4」と
「アダルトゲームの歴史 1992年 その5」の方が、
質量共にはるかに詳しくなされています。
なので、システム部分に興味のある方は、
そちらも併せて読んでいただけると助かります。
通常は「コマンド選択式」とかの基本システムに、
何かしら目玉となる要素が1つ加わる程度なのでしょう。
しかしこのゲームは1つではなく、幾つも導入されているのです。
そして、その中には新しいと言える部分もあるし、
そうでない部分もあるということですね。
また、仮に先例となる作品がある要素に関しても、
従前の作品より優れてましたからね。
つまり単なる2番煎じではなく、
どの要素も先駆けとなった作品を超えているのです。
例えば時間の概念にしても、
単に当該時間にだけ特定の場所にキャラがいるのではなく、
AというイベントとBというイベントの間の時間には、
その両方の場所をつなぐ地点にそのキャラがおり、
キャラの行動の連続性・一貫性を感じさせてくれるのです。
そうした各要素の作り込みがあるからこそ、
当該要素に対し本作が初なのだと認識する人も増えたのでしょう。
しかも、そうした要素が複数あるわけですから、
だからそこがまず凄いわけです。
1つの要素が既発売の作品を上まわるだけでも名作と言えるのに、
これは本当に驚愕ものです。
ここら辺は一つ一つ書いていると長くなるので割愛しますが、
もう1点だけ書いておきます。
『同級生』の基本システムはP&C式のADVになります。
つまり画面をクリックしてその反応を楽しむことがベースにあるのですが、
どこをクリックしても様々な返答がかえってくるし、
クリックに応じてちょこちょこっと画面内に動きがあったりするので、
それだけでも楽しかったものです。
このジャンルに関しては、エルフは本当に上手かったですね。
国内では随一と言えるでしょう。
後に『下級生』が出たときに古参ファンから少し叩かれたりもしたのですが、
実は『下級生』では画面クリックの要素がなくなっています。
『同級生』は時間を管理するゲームだと多くの人は言うけれど、
もしそこにしか注目しないのであれば、
おそらく『下級生』はそれ程叩かれなかったでしょう。
後の批評家は時間の概念ばかり注目し、その点を主に語りたがるけれど、
そうじゃないのですよ。
確かに『同級生』には時間管理という楽しさもあるのだけれど、
その面白さの根底には、
P&C式としての基盤がしっかりしていたことが挙げられるのでしょう。
だからその基盤が失われた『下級生』は、古参のファンに叩かれたのです。
まぁ後のノベルゲーやストーリーしか興味のない人は、
この部分を軽視するのですけどね。
でもADVが好きな人ほど大事にする部分なので、
ここだけはちょっと書いてみました。
<ゲームデザイン>
コラムでも長々書いているのでこれ以上はやめますが、
システムや要素の一つ一つを見るだけで本作には興味深い点が多いです。
とはいえ『同級生』の本当の価値は、そんな部分的で細かい点、
つまり個々のゲームシステムなんかにあるのではないのでしょう。
各種システムを幾重にも重なり合わせ、
そうする事で実現させたかったものは何なのか。
そのトータルのゲームデザインこそが優れていたのです。
そもそも、いくら各要素が凄くても、
必ずしもそれが作品の評価そのものに繋がるわけではないでしょう。
何でもかんでも盛り込めば良いってもんじゃないですからね。
自分が表現したい物のために、一体何を導入すべきなのか。
それこそがゲームデザイナーの腕の見せ所だと、私は考えます。
『同級生』が表現したかったもの。
それはあの夏、あの街で過ごす、
あの体験にこそあったのではないでしょうか。
単に結末だけを追うのではなく、そこに至るまでの過程をじっくり味わう。
最近ではナラティブなんて便利な言葉が浸透し始めていますので、
一時期よりは理解してもらいやすいと思うのですが、
それこそが、このゲームの楽しみ方なのだと思います。

先負町という存在そのもの、そこでのユーザの体験を存分に表現する。
そのためには、様々なシステムや要素が必要だったのでしょう。
単に目的地を選択させるのではなく、実際に移動させる。
それは町の広がりを意識させるだけではありません。
途中で寄り道をすれば、そこには移動中のキャラがいたりします。
彼女らもそこに存在し、時間に沿って生活しているんですよね。
あちこちクリックすれば、いろんな住民や町のことがわかります。
クリックするたびに新たな発見があったものですよ。
もちろん恋愛ゲー的な一面もありますからね、ノベルゲームのように、
可愛いヒロインとのエンドをひたすら目指すのも良いでしょう。
私も隣の美人妻の家に入り浸ってましたしw
自由に動き回って様々なものを見たり感じたりする。
それは小説のようなきちっとした文章ではないのだけれど、
クリアしたときにはきっと別の人生を満喫したかのような充実感があるはず。
この充実感は、ゲームならではの物なのではないでしょうか。
物語を伝える手段は何も映画や小説だけではない。
それどころか、映画や小説では伝えられないものもある。
そのことをハッキリと再認識させてくれた作品でした。
<ストーリー>
ときどきですが『同級生』に対し、
恋愛ゲーやストーリーゲーの元祖みたいに書かれているのを見かけます。
しかし、それはちょっと違います。
恋愛ゲーに関しては、本作は必ずしも恋愛だけを扱った作品ではないので、
そもそも恋愛ゲーと断定して良いのかすらも議論の分かれるところでしょう。
後のWIN版は恋愛ゲーへとアレンジされてしまいましたが、
個人的にはオリジナルはあくまでもナンパゲーなのだと考えますし。
まぁ恋愛の要素があることで広い意味では恋愛ゲーでも良いのでしょう。
なので半分正解ってところでしょうか。
もっとも恋愛ゲーであるとしても、恋愛ゲーは本作以前にも既にあったので、
元祖というのは誤りでしかありません。
またこの作品からストーリーでも楽しめるようになったとか、
元祖だっていうのは間違いでしかありません。
それ以前に、80年代後半から既に、
ストーリー重視の作品は幾つもありましたからね。
90年前後の優れたストーリーの作品に関しては、
既に何本も記事で扱っています。
だからこのブログの読者ならば、もう分かりきっていることでしょう。
『同級生』から~と言い出す人は、まず間違いなく古い作品を知らず、
勝手なイメージで語っているにすぎません。
そもそも、もっと根本的な話として、
蛭田さん自身も本作に「ストーリーは存在しない」と言っているし、
システムからも自明なのですが、
同級生にあるのは多数のイベントであり、
そこに「ストーリー」はありません。
だからストーリー重視では、決してありえないのです。
本作におけるストーリーは、プレイヤーが各種のイベントを体験し、
それを積み重ねることによって生まれるナラティブな存在なのです。
その積み重ねていくという体験こそが新しかったのであり、
『同級生』の肝と言えるのでしょうね。
まぁテキストでの蛭田節は存分に発揮されていますので、
シナリオ=テキストと解釈した上で、
テキストの良さを強調したいという意味でならば、
本作に対しシナリオ重視ということは十分可能です。
シナリオ重視という言葉からイメージするものが、
どうも今と昔では異なるようなのですが、
良いストーリーのある作品をシナリオ重視というならば、
本作は違うよということですね。
<キャラ>
見所の多い作品だけに、個人的にはシステム部分をつい長く書いてしまうし、
何度書いても完全には満足いけるものにもならないのですが、
忘れてはならないのは、
『同級生』がシステムだけの作品ではないってことです。
上記のように決してストーリー重視でないはずなのに、
それでもそう錯覚してしまう人が出てくるのは、
それだけ個々のイベントが優れていたということでもありますから。
『同級生』には、数多くの魅力的なヒロインがいました。
普通ならこのヒロインがお気に入りって書くのですが、
一杯いすぎて好きでないキャラを挙げた方が早いくらいです。
それくらいどのヒロインも好きだったのですが、
『同級生』というタイトルのわりには年上キャラが多く、
ヒロインの半分以上を年上キャラが占めていましたよね。
私はロリから熟女まで幅広く好きで、
ストライクゾーンチェッカーで節操なしと言われてしまったくらいですが、
もともとはロリ好きだったわけでして。
本作には可愛い系のヒロインも揃っているので十分に満足したのですが、
可愛いヒロインなら他の作品にだって登場します。
でも、現実でも美少女より美熟女の方が数が少ないのと同じで、
可愛いヒロインより魅力的な年上キャラの方が、
ゲームでも圧倒的に少ないように思います。
美熟女は存在するだけでステータスなのであり、
『同級生』には魅力的な年上キャラが多くいたことで、
他作品にはない価値を見出せたものです。
思い返してみると、年上キャラや熟女キャラに惹かれるようになったのは、
この『同級生』が原因だったように思います。
隣に住む人妻の真行司麗子さんの元には、毎日のように通っていましたしね。
自分の属性や好みの幅が広がったという意味でも、
非常に思い出深いゲームでした。
仮に『上級生』というゲームが出たら、年上や熟女ばっかりだったのかな?
まず出ることはないでしょうが、やってみたかったものですね。
<グラフィック>
当時のエルフ作品全般に言えることですが、
グラフィック・サウンド・ボリューム等については文句なしでしたね。
原画は『卒業』などで当時人気の非常に高かった竹井正樹さんで、
後には絵柄が少し崩れるのですが、この当時は抜群に可愛かったです。
また単に一枚絵の出来が良かったというだけでなく、
クリックしたときのアニメーションによる反応とか、
細かい部分での絵の動きもありましたし、
ここら辺はエルフの非常に得意とするところで、
本作でも十分に発揮されていましたね。
<サウンド>
サウンドもノリが良く好きだったのですが、ちょっと移植版について補足を。
私は基本的にどのゲームもオリジナルばかりで、
リメイクや移植にあまり興味を持たない方です。
大抵は改悪ばかりですから。
しかし、PCE版の『同級生』には凄く惹かれて、
これは買わねばと思って購入したものです。
そう思った理由はCMを見たからなのですが、
そこでちょこっとだけ流れていたED曲が凄く良かったんですよね。
ED曲の「Memory」は今でも屈指の名曲だと思いますし、
あのCMも美少女ゲームのCMでは一番好きです。
まぁ今では、美少女ゲームの宣伝をCMで見かけることはなくなりましたが。
そういや、当時1番人気だったバンビちゃんこと田中美沙。
PCE版では小野寺麻理子さんがやっていたのですが、
すぐに引退しちゃったのでSS版以降は別の人に代わってしまったんですよね。
ユーザー数の関係でサターン版の方が知名度が高いでしょうから、
多くの人には違うのかもしれないけれど、
私はやっぱり小野寺麻理子さんのイメージが強いです。
小野寺さんは『プライベートアイドル』とかでも良い演技をしていましたし、
早期の引退は本当に惜しかったですね。
<感想・総合>
最後に、本作品にはリメイクされたWIN版もあります。
リメイク時(99年)の流行にあわせて恋愛重視に変更されています。
そのため、上記のオリジナルにあった魅力が一部削られています。
申し訳ないけれど、リメイク版で良いと言う人の感想を見て、
本当に本作の魅力を捉えているなと感じたことは1度もありません。
リメイク版で満足できてしまう人は、
本質的に違うゲームの方が向いています。
恋愛要素にしたって、
恋愛物や音声を求めるなら今の萌えゲーを買ったほうが良いでしょう。
オリジナルが猛々しい野生の虎なら、リメイクは牙の抜けた檻の中の虎。
それはそれで可愛いかもだけど、
可愛さなら愛玩系小動物(萌えゲー)の方が上。
リメイク版は結局のところ、どっちつかずなんですよ。
なので、私個人はオリジナル版をオススメします。
今ならオリジナルのダウンロード版もあって入手もしやすくなりましたしね。
というわけで少しリメイク版への不満も書きましたが、
オリジナル版に関しては文句がありません。
アダルトゲームという枠だけでなく、
ADVというジャンルの中においても画期的な大傑作でした。
ランク:S(名作)
DL版

関連するタグ PC98 /ADV /P&C式 /
春ゆきてレトロチカ AMBITIOUS MISSION 蒼の彼方のフォーリズム EXTRA2
- カテゴリ「1992」内の前後の記事