90年代のADVの話 その5

90年代のADVの話 その5

というわけで、ここまでが前提の話ですね。前提の話の方が長くなってしまう気もするのですが、話を元に戻しまして。
前回からの話の筋として、ジョー・スパークスはヴァーチャルリアリティの構築に大きな関心を抱いており、ゲームにもその姿勢が見て取れます。
しかし最大の関心は別にあったのか、それとも途中で移ったのか、そこら辺はもう少し調べないと分からないのですが、ジョー・スパークスはゲームデザイナーなのですが、決して企画だけではないんですね。スペースシップワーロックではムービーの幾つかを手がけ、プログラムのほとんどを担当し、サウンドも自身で作っています。ムービーとサウンド、そしてその両者の融合のさせ方そのものに強い関心を抱いているのです。
95年に発売されたトータルディストーションは実にそんな彼らしい作品でした。具体的には映像や音楽の素材を集め、それを編集させてミュージックビデオを制作するゲームなわけですからね。

まぁ、この頃に関して言えば、一番興味があったのはサウンドみたいですけどね。元々バンドもやっていたみたいですが、単に作曲にとどまるのではなく、曲を可視化させたり新たな表現方法を模索したかったのでしょう。そういう試みや音楽業界からの流入は他にもあったわけで、「ザ・レジデンツ」の制作した『バッドデイ・オン・ザ・ミッドウェイ』辺りが代表例になるのでしょうか。

トータルディストーションの時点でジョー・スパークスはADVの範囲から逸脱しつつあったのですが、映像と音楽の融合の観点がその後の一番の関心になっていったようで、結局ポップ・ロケッツ社でのゲーム制作は1本限りになってしまいます。
その後彼が何をしたのかなのですが、Shockwave.comで『RADISKULL&DEVIL DOLL』というアニメーションを制作しました。解説本とかはAMAZONでも売っていますね。
Radiskull&Devil DoLL
RADISKULLというのはRadicalなSkullということで、頭蓋骨なんですね。このラディスカルと小悪魔のデビルドールの会話で進行するアニメなのですが、もとはFRASH4とMP3のシンクロ性能を試すために作られたのがRADISKULLだそうです。
ADVファンとしてはADV作りから離れてしまったことは残念でもあるのですが、映像と音楽の融合の形を模索するということで、彼の行動としては一貫していると言えるのでしょう。
その後はどうなったのか知らないし、オーサリングツールの使い方の話などは技術的かつ専門的な内容であるため、私にはよく分かりません。もっとも『RADISKULL&DEVIL DOLL』もFRASHの新しいスタイルを確立したとか言われているそうなので、やっぱりその分野では凄い人なんでしょうけどね。
そういうわけでジョー・スパークスはゲームというよりその制作における基盤部分の方向に進んでしまったため、ADV業界の表舞台から去ってしまいます。

インタラクティブムービーにヴァーチャルリアリティを持ち込んだ彼の意思は、基本的には後のMYST系ADVにつながっていったと言えるのでしょう。まぁ言うまでもなくMYST系ADVの原点たるMYSTはある意味ではインタラクティブムービーの派生版ではあるものの、出発点からして異なりますからね。直接MYST系ADVとつなげて語ってしまうのは本当は誤解を招きかねないのでしょうけれど、とりあえずヴァーチャルリアリティの構築という側面に関しては、その精神をMYST系ADVが担ったということですね。
MYST系ADVがあくまでもADV的発想の中で新たなゲーム性を打ち出していったのに対し、トータルディストーションは場面に応じて必要な要素を取り入れるというジャンルの垣根を越えた作り方をしています。その点でトータルディストーションは従来のインタラクティブムービーとも異なるし、他方で流行しつつあったMYST系ADVとも異なる方向性を有しています。
このジョー・スパークスの目指した方向性は個人的には興味があるのですが、発売されるには少し早かったのかもしれません。今はジャンルの垣根を越えたゲームも増えていますが、トータルディストーションが発売された95年頃は、国内でもこのジャンルはこうあるべしと考えるような人が多かったですからね。その意味では出るのが早かったとなるのでしょう。
もっとも、国内のADVはほとんどがノベルという状況になり、どんどんいろんなものを削っていく道を歩むことになるわけで、トータルディストーション的な構造のADVは国内において言えば、やっぱり受け入れられにくいままなのでしょうね。
だからいつの時代においても異端の存在となってしまうのでしょうが、個人的にはトータルディストーションの先の姿を見ていたかったなと、ときどき思ってしまいます。

と言うわけで、ヴァーチャルリアリティの一つの方向性は主にMYST系ADVに委ねられることになりましたが、もちろん可能性は一つに限らないわけです。そしてまた違った可能性を見せてくれたのが、ジョー・スパークスのリアクター社の同僚でもあったビル・アップルトンでした。

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