アダルトゲームの歴史 1991年 その2

アダルトゲームの歴史 1991年 その2

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第14弾ということで、今回は1991年の2回目になります。

前回に引き続きゲームデザイン・システム面の話と、グラフィックについて見ていきます。

最初から細かい変化で申し訳ないのですが、前年までは例え他機種での発売があろうとも、基本的にはPC-88が主体であり、そのPC-88には一応マウスは存在するものの、必ずしも標準とされていませんでした。だからゲームの設計思想にもキーボードでの操作が念頭に置かれていたのです。
他方、PC-98はマウスが標準であり、マウスでの操作を念頭に置いて設計されるようになりました。フルマウスオペレーションがうたい文句になったゲームもあるくらいですからね。それにより、コマンド選択式もマウス操作に対応することが標準的になっていったのです。

ここまでなら、マウスにも対応することになって操作性も向上して良かったね…と思いがちなんですけどね。少数派かもしれないので一応私見としておきますが、PC-88のコマンド選択式はキーボード操作を基準に設計されていて、具体的には各コマンドに対してテンキーが割り振ってあったのです。連続してコマンドを選ぶ場合にも、テンキーのボタンを押していくだけで進行しました。これがマウス操作が標準の時代になると、多くのゲームで各コマンドのテンキーへの割り振りがなくなってしまったのです。
ゲーム機のコントローラーにしてもマウスにしても、選択すべきコマンドに移動させてからクリックという、クリックの前に1つ動作が増えることになります。テンキー操作ならその手間が存在しません。もちろん移動させるっていうのは、1回きりなら手間と呼べるほど大げさなものではありません。しかし何時間もそういう動作を繰り返していると、ボディーブローのように堪えてくるのです。特に総当りと揶揄されそうな何度も同じコマンドを繰り返すタイプになると、細かな移動の数時間にも及ぶ単純かつ反復的な作業となりますからね。もちろん全く気にならないよって人もいるでしょうが、これは気にする人が出てくることも当然予想されるでしょう。個人的にはコマンド選択式はテンキー操作が最も楽であり、それがなくなっていくことは操作性の面での改悪だと思います。
そう言えば、2000年に『不確定世界の探偵紳士』が発売されたのですが、あのゲームはコマンド選択式ADVでありつつ、テンキー操作に対応していました。それが便利だったという意見は良く聞きましたから、上で私見とは書きましたが、やっぱり多くの人がプレイのしやすさを感じていたのだと思います。同時に、このゲームで初めてこのテンキー操作の形式に触れたような人も結構いたようなので、PC-98以降にテンキー操作がそれだけ廃れていったということの証明でもあるのかもしれません。

以上のようにマウスの標準化により悪い側面も見えてきたのですが、逆に標準となったマウスを良い方に活用していくゲームも登場します。それがポイント&クリック(P&C)式のADVです。
これはマウスで画面をクリックしていくタイプのADVになります。海外のADVにおける中心的なジャンルであり、そこでの一般的なP&C式ADVは多数のアイテムをインベントリーに収納し、そのアイテムを要所要所で攻略に活用していくことになります。P&C式であることとインベントリーの活用は論理必然的な関係ではないのですが、古くからの伝統で半ばセットになっています。
しかしアダルトゲームにおけるP&C式ADVはインベントリーを活用せず、純粋に画面クリックのみで進行するタイプが多いことから、端的に画面クリック式と称される場合もあります。
もう少し補足しますと、システムとストーリーの関連に論理的な絶対はないものの、流行の関係で大まかな路線は出来上がりやすいものです。海外の場合、ストーリーを中心としたゲームにP&C式ADVが用いられるのですが、そこでは主人公の姿が表示され、上記のようにインベントリーを用いる傾向が強いです。他方、テキストをできるだけ廃してグラフィックにより世界観を堪能させることが中心であるゲームでは主人公の姿が表示されず、この路線は『MYST』の登場により謎解きを中心としたパズルゲーム的側面も強くしていきます。当時はまだ『MYST』はありませんが、その原型たる『マンホール』は既に発売されており、『マンホール』は主人公の姿が表示されず、テキストのない絵だけの世界をクリックだけで進行し、『MYST』と異なりパズル要素もありません。この『マンホール』タイプが国内のP&C式ADVの多くに一番近いのですが、『マンホール』と異なりテキスト重視のストーリーモノに用いているところに、それぞれのお国事情が出ているように思われます。

話を元に戻しまして、91年のP&C式ADVとしては、まず『ギディ』があります。これはアイコン選択式も兼ねており、一度行動アイコンを選択した後、その行動を行う対象を画面内から選ぶことになります。
形式的には80年代からあったものですが、マウス操作になりましたからね。想像してもらえば分かるとおもいますが、ディスプレイ上の1点をクリックするのに、キーボードで移動させていくのとマウスで移動させていくのとでは、まるで感覚が違います。マウス操作が前提になることでようやくゲームとしての形となった形式と言えるように思います。
かようにP&C式ADVはフルマウスオペレーションにより、劇的に操作性が向上します。ここら辺は海外のADVから歴史を見ていくと分かりやすいのでしょうが、必要な範囲で書きますと、初期の頃はキーボード操作も併用していました。しかしキーボードとマウスの併用は煩わしいことから、LucasFilm Games(後のLucasArtsで、映画監督のジョージ・ルーカス率いるルーカスフィルムのゲーム制作部門として設立された会社です)はマウスだけでプレイできる1SCUMMシステムを『MANIAC MANSION(マニアックマンション)』(1988)で導入し、世界中で大ヒットさせました。
もっとも当時の1SCUMMシステムは一度行動すべきコマンドをクリックし、その後対象をクリックするものであり、上記の『ギディ』のような構造だったわけです。フルマウス操作が可能になった点でキーボード併用タイプよりは快適になったものの、このシステムでは行動コマンドをクリックするために画面内を行ったり来たりしなければいけませんでした。その手間を省き画面内の対象を直接クリックすることでゲームを進行させられるようにしたのが、世界中に熱狂的なファンを持つ『THE SECRET OF MONKEY ISLAND』(1990)でした。
そしてアダルトゲームにおいて画面を直接クリックするだけで全てが進行するタイプのシステムを国内で最初に導入したのが、エルフの『ELLE』でした。『ELLE』は『THE SECRET OF MONKEY ISLAND』のようにインベントリーを使用してゲームの難易度を上げる方法は採っていません。その代わり、あちこちクリックするとテキストが細かく変化したり背景やオブジェクトが動き出したりと、そういう遊び心を随所に混ぜることで、ゲームとしての楽しさを作り出したわけです。ADVのゲームとしての評価ポイントは幾つかありますが、大きく分けるとプレイヤーとしてできることの多彩さの観点と、何かした場合の反応の多彩さの観点があります。『ELLE』の場合は、後者をより重視して制作したということなのでしょう。

ところで、ADVとしては何も1つのシステムにこだわる必要はありません。他ジャンルを交えなくても、ADV内の細かいシステム同士を掛け合わせることも考えられます。
例えば『殺人ロマン紀行 恋の長野慕情』では幾つか面白い要素が取り入れられています。まず、ゲームの基本は直接クリックするタイプのP&C式ADVになっています。しかしミステリーものであることから必要な情報は足で探せってことで、探索部分ではRPGみたいにフィールド内を移動させることになります。このゲームの場合は個々のシステムというより全体的な組み合わせが良かったのかもしれません。マルチウインドウ方式でもあり、いろんなウインドウが画面内に登場するのですが、会話部分では複数のキャラの顔ウインドウが前面に表示され、画面クリックをする場合にはクリック対象のウインドウがディスプレイ全体に大きく表示されます。
下3行のテキスト枠であるとか、グラフィックを覆う枠であるとか、多くのADVに見られるような暗黙の制約みたいなものは、ここには存在しません。ゲームに必要なことのために必要なものを導入したという感じで、非常に自由です。因みに、テキストは長野慕情という雰囲気に合わせて縦書きになっています。画面中央にクリック対象のキャラを大きく表示すると、人物は縦長であるために左右にスペースが生まれます。その空いた右側のスペースにテキスト欄を配置とかって感じですね。フィールド探索の場合には目的物があるとカットインで小さめの絵が挿入されたりするわけで、今のどのアダルトゲームよりもずっと自由なんですよね。
定型化され固定化されたデザインをシステムの完成と思い込む人にはこういうゲームは落ち着かないのかもしれませんが、私見ではあるものの、ストーリーに適したゲームデザインは作品ごとに全部異なるものであり、本当はストーリーの数だけゲームデザインもあって然るべきだと思うのです。同人なら汎用のシステムに頼るのは仕方ないとしても、商業ブランドが固定化するのは怠慢だと思うのですよ。

ゲームデザイン面はそんなところで、次に演出面です。
ほとんどがPC-98用になり、200ライン・デジタル8色から400ライン・アナログ16色になったことで、全般的にCGの質が向上しています。もっとも制作進行の関係で多少の前後はあったみたいで、例えばカクテルソフトの『ナイキ』は400ラインだったのですが、後発の『コズミックサイコ』はPC-88版もあって200ラインで制作されていました。
いつの時代もCGの綺麗なブランドは人気ですし売れるのですが、この頃の代表格に『CAL2』を始めとしたバーディソフトの作品が挙げられると思います。
また原画枚数200枚でメカニカルデザインをスタジオぬえが担当し、アニメーション処理を武器にした『ドラゴンアイズ』のように、グラフィックの質や量を前面に押し出したゲームが登場してきます。これもPC-98になったことの影響なのでしょう。
画質ではなくもっと広い意味でのグラフィックや演出という意味では、エルフの『ELLE』は上記のように背景やキャラが細かく動き、画面全体で楽しませてくれました。『殺人ロマン紀行 恋の長野慕情』なんかも繰り返しになるので省略しますが、厳密にはむしろ演出面での魅せ方が上手かったとなるのかもしれませんね。
他方でサウンド面にこだわりをみせるブランドも生まれ始め、『2069AD』では業界初のシングルCDが付属し、『コズミックサイコ』では業界初のサントラアルバムが付属しました。一時期は途絶えてしまうのですが、しばらくはこういう音楽CDを付ける動きもありました。

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