アダルトゲームの歴史 1990年 その1

アダルトゲームの歴史 1990年 その1

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第11弾ということで、今回は1990年の1回目になります。

1990年に発売されたタイトル数は多少の増減はあると思いますが、大体90本前後になるようです。前年と比べた場合、横ばいかやや増加したってところでしょうか。

前年の89年はエルフ・アリス・アイデスという後の3強となるブランドが全て揃うと共に、看板タイトルになるシリーズの初代を発売した年でした。PC-98時代を担うブランドが本格的に始動しだしたことで、今から振り返ってみても非常に目立つ年とも言えるのです。
具体的なゲームの構造を見てみても、学園ラブコメとミステリー的な事件性の融合というPC-98時代序盤に多く見られる構造が生まれた年でもあり、他方でストーリー重視の優れた非美少女系作品も登場し、非常に癖の強い年でした。

さて、それを受けての90年なのですが、個々のゲームの傾向としては89年の正当進化系といった雰囲気だったのだと思います。つまり、一方で前年までの路線を大幅にバージョンアップさせたような完成度を高めたゲームが次々に登場した一方で、逆に目新しい要素という側面ではやや物足りなさの残る年だったように思います。

他方で、もう少し広い視点から全体を見てみると、他の年とは大きく異なる特徴があったのもまた、この90年だったわけでして。
というのも、アダルトゲームの場合は基本的にいつの時代も、発売タイトル数に占めるADVの比率が高くなっています。年間で発売されたタイトル数の中でADVの数が一番多いという意味では90年も同様なのですが、90年のADVは全体の約3分の1しかなく、例年に比べると比率の上では非常に低下しています。他は3分の1弱がRPGで、残り3分の1がその他のジャンルになっています。つまりADVの数に匹敵するくらいRPGが発売された年であり、他の年とも比較した相対的な印象としては、90年はRPGの年だったという印象が強いわけですね。残り3分の1にもSLGやアクション系が含まれていますから、90年は例年よりもゲーム性を重視した作品が多かったということになります。

ゲームデザイン面で具体的に見ていきますと、ADVは数字合わせ系の『愛をありがとう いかせ男入門』や移動式ADVの『AYUMI』、全流通のノベルゲーが数本あるだけで、他はコマンド選択式ばかりになっています。ここに来てコマンド選択式の時代が到来したってところでしょうか。
とは言うものの、それは新たな発展があったからと言うのではなく、あくまで数が多いからにすぎません。コマンド選択式もオムニバスの『DPS SG』や、ノベル系に近く簡素化されたもの、或いは『きゃんきゃんバニー スペリオール』のようにマルチENDで非常に高難易度のものといろいろあるのですが、どれも基本的に前年からの引継ぎであり、90年に何かが変わったと言えるような新しい動きは乏しかったように思います。
1点だけ注目するとすれば、『毎日がえっち』で時間の概念が導入されたことが挙げられるでしょうか。時間の概念といえば『同級生』(1992)が有名ですが、あちらは直接キャラを移動させるタイプであり、『毎日がえっち』はコマンド選択式なので見た目の印象は異なります。また同級生は他にも様々な要素を取り入れてますので、プレイ感覚は大分異なります。従って全然別のゲームではあるのですが、とりあえず「時間の概念」に関してだけは同級生より先駆けていたということですね。もっとも、その時間の概念自体も一般PCゲーでは既に導入されたゲームがありましたので、あくまでもアダルトゲームの中では先駆け的な立場にあったと限定がついてしまいますけれど。

RPGはとにかく数が多かったですね。前年に『ドラゴンナイト』を制作したエルフは『ドラゴンナイト2』を製作し、アリスソフトは『ランス2』を制作しています。ランスは初代はADVに近かったので、RPGとしてはこの2が実質的に最初の作品になりますね。エルフは他にも『RAY-GAN』を製作し、こちらはフィールドタイプのRPGになります。
コンシューマーではRPGはドラクエやFFのように、フィールドタイプの方が主流になっています。しかしアダルトゲームでは『カオスエンジェルズ』や『ドラゴンナイト』と注目タイトルがダンジョン系から始まったこともあり、どちらかと言うとダンジョンRPGの方に大作系が多かったように思います。PC-98時代になってからも名作と語られるゲームの多くがダンジョンタイプですので、アダルトゲームのRPGはダンジョン系という印象がどうしても強くなってしまいますね。そしてアリスの『闘神都市』はこの年のダンジョンRPGの代表格であり、『カオスエンジェルズ』の流れを汲みつつ発展させたゲームと言えるのでしょう。アイデスも『イルミナ』や『X’na(キサナ)』を製作し、キャラ同士の会話などのシステムを導入していました。
もっとも大手によるこれらのRPGは、基本的にはゲーム部分に斬新な要素を入れるというよりも、完成度を高めて手堅く遊べる方向を目指し、他との差別化を図る勝負所はストーリーやキャラやグラフィックで図ったという感じでした。
むしろゲームデザイン的に珍しいのは、システムハウスOH!の『キャロル』や『エメラルド伝説』といったRPGになるのでしょう。移動は横スクロールで進みつつ戦闘はコマンド選択式で、面白いか否かは別として珍しさはありました。これまで触れてきませんでしたが、システムハウスOH!のゲームはPC-88としては珍しいことに音声も標準で付いていますので、力の入れ所や向かっている方向が他所とは異なる、独自路線を突き進んだブランドというイメージが強いです。

以上のようにADVとRPGで3分の2とかなりの数になります。単なる紙芝居よりはRPGの方がゲーム性があるだろという観点からは、90年はゲーム性重視になった年だという捉え方になるでしょう。
しかし上述のようにADVは正当進化系であり、システム的に新しい面は乏しく、シナリオ・キャラなどで勝負というゲームが大半です。他方でRPGにしても、『カオスエンジェルズ』のようなシステム的に新しい側面のあるゲームはなく、完成度を高めたと言ってもゲーム機や一般PCゲーのRPGの後追いのレベルに留まっており、結局他所との差別化や本当の勝負所はシナリオやキャラなどでという内容になっています。
他所とはここが違うのだよという一番のセールスポイントがゲーム部分になっていませんので、表面的にはゲーム性重視に転じたように見えるものの、実質的にはシナリオ等を重視する前年の流れを受け継いだと考える方が私見ではありますが適切なように思います。

SLGらしいSLGが登場しだしたのも、90年からになります。そういう意味では、新しい傾向と言えるかもしれません。具体的には大戦略のアダルト版たる『ストロベリー大戦略』やレッスルエンジェルスシリーズの雛形である『ドキドキカードリーグ』が登場しました。
もっともある意味一番興味深いのは、ハート電子の『ぶりんぐ・あっぷ』と『優子物語』なのでしょう。『ぶりんぐ・あっぷ』は形式的には育成SLGになります。一般的に育成SLGの元祖とされる『プリンセスメーカー』は91年の発売ですので、それより先駆けているのです。
しかし、世間的には『ぶりんぐ・あっぷ』が元祖という見解はあまり見かけません。それは作り込みが甘かったからというのも大きいのでしょうが、構造的にちょっと違うんじゃないかという問題も含んでいたからなのでしょう。
というのも事前にスケジュールを組んで、それによってパラメーターが変化しますので、基本的な育成SLGの形は備えているのです。しかし『ぶりんぐ・あっぷ』の場合、1日の終わりにパラメーターの数値によってCGにかけられたマスクが外されていきます。ゲームの目的はマスクを全部剥がしてCGを見ることにあり、マスクを剥がすための進行度の目安として数値が用いられているわけです。
一般的な育成SLGは対象の育成を目的として、数値変動に着目し管理するゲームです。一見するとやることは同じようなのだけれど、目的というか目指すものが全然異なるのです。だからこれを育成SLGというと、いや育成させようとしてプレイしているわけじゃないしな、何かちょっと違うよなって違和感が生じてしまうのです。もちろんこの見解は私を含めた世間一般の多数説にすぎませんので、少数有力説として『ぶりんぐ・あっぷ』こそ元祖と唱えるのもありでしょうし、もっと積極的な説明に成功すれば風向きは変わりうるのでしょう。何れにしろ、検討の価値のあるユニークな存在ではありました。

その『ぶりんぐ・あっぷ』を制作したハート電子が作ったもう1本のゲームが、『優子物語』でした。(翌91年には育成SLGの『ボクサーメーカー』を制作していますし、92年には最早アダルトゲームですらなくなるのですが、『風へ 翼よ、愛あるところへ…』という鳩育成SLGを作ります。ハート電子はこの時期、ほぼ唯一と言っていいくらいに、育成系を多く作っていたブランドでした。)
『優子物語』は4章仕立てになっています。1章と3章はコマンド選択式のADVで、2章と4章が育成SLG風になっています。こちらは小説家を育てるゲームですので、目的としては育成するという姿勢が見てとれます。しかしゲームの半分はADVであり、他にも小説作成パートがあったりしてゲームとしては斬新で以後もあまり見かけない構造にはなっているものの、複合的で比重が少ないがために育成SLGではないと判断されやすかったのかもしれません。

『ぶりんぐ・あっぷ』も『優子物語』も、構造的にはかなり個性が際立っています。ハート電子はアイデアや目の付け所は抜群だったのですが、肝心の作り込みがかなり甘いことからその魅力に気付いてもらえないことも多く、メジャーになれずに終わってしまいました。
同じようなことは全流通にも当てはまりますね。この2つのブランドは作り込みの観点からはクソゲーと呼ばれても仕方ない出来のものが多かったのですが、アイデアや目の付け所だけは抜群に良く、一般ゲーにもないものが多数ありました。だから完成度を求める人には合わないし、プレイ後には何でこれ買ったんだろと思ってしまいがちなブランドなのですが、一般ゲーや他の媒体にない新鮮なものを求める人には、目の話せないブランドでもあったのです。

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