アダルトゲームの歴史 1989年 その2

アダルトゲームの歴史 1989年 その2

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第10弾ということで、今回は1989年の2回目になる。

アダルトゲームの黄金期の幕開けはいつかと考えた場合、個人的には89年なのではないかと考える。


<サウンド>


音源の話を細かくしだしたら長くなるし、強いこだわりのある人が多い一方で、比較的疎くて後回しだった私がとやかく言うのも何だかなと思うので、ここでは詳しくは他所に委ねることにする。

だから簡単な紹介になってしまうのだけれど、とりあえず知っておくべきこととして、高品質な音源としてMIDI音源というのが存在した。
MIDI音源はPC-98末期でも必ずしも標準とまでは言えなかったし、高価だったので、音にこだわりがないと手を出しにくい高嶺の花でもあった。
そのMIDI音源にいち早く対応したのがオレンジハウスであり、作品としては『REVIEW』が最初にMIDI音源に対応したアダルトゲームだった。

<ヒロイン>


詳しくは後述するが、『ドラゴンナイト』においては、ルナというヒロインの個性が際立ったことで、グラフィック上の可愛さだけでなく、内面的にも更に愛着が沸くようになっていた。
蛭田氏がフェアリーテールで『リップスティックアドベンチャー』(1988)を作り、独立して作ったエルフから『ドラゴンナイト』を発売したことにより、そこで魅力的な内面的な意味での個性を持ったヒロインを作り上げたことが、一般ゲーム業界と異なる美少女ゲーム業界としての存在を築き上げたともいえよう。

ところで、ここまでは『リップスティックアドベンチャー』の存在があるがために、どうしても蛭田氏の観点から語ってしまっていたのだけれど、この時期のアダルトゲームの変遷を考える場合には、エルフを中心に据えて考えるのはまだ早いというか、少し誤解を招いてしまうような危険な行為なのだろう。

そこで他のブランドを見てみると、85年の『天使たちの午後』以降、業界の中心的な役割を担っていたのはジャストというブランドである。
ついでに補足すると、そこからキララ(後のアイデスでフェアリーテールやカクテルソフトブランドを持つ)が独立し、更にキララからエルフが独立することになる。
この一連の動きが、アダルトゲーム業界の主流の変遷にも対応すると思うのだけれど、細かい点は後回しということで。

とりあえず、その中心だったジャストは何をしていたかというと、『天使たちの午後2 番外編』(1988)でヒロインは必ずしも最終目標でないと示した点は蛭田作品と同様である。しかし、作中での出番が少なかったことから、ヒロイン像の確立にまでは至っていなかった。
ジャストが対応してきたのは89年であり、具体的にはクレストという別ブランドからではあるものの、『デリンジャー』や続編である『夜の天使たち ~私鉄沿線殺人事件~』を発売しており、そこで「中藤美希」という架空のアイドルを誕生させ、前面に押し出してきている。
エルフと比べると若干の後追い、だからこそジャストは次第に中心的存在でなくなったとも言えるのだろうが、いずれにしろ同じ方向を歩んでいたとはいえよう。

因みに、「中藤美希シリーズ」に関して言うならば、3作目も企画されており、その企画されていたものから鑑みるに、本当はもっと広範囲に、たぶん今で言うアイマスみたいな路線にもっていきたかったのだろう。そして、それが上手くいっていたならば、この市場もまた違った展開を見せていたかもしれない。
しかし現実的には、メディアミックスが二次元の世界で注目されだすのは90年代半ばの話であり、この時はまだ、そこまでには至らなかったということなのだろう。

<ストーリー・学園モノ>


ストーリーの流行という観点からは、前年から明らかに変化している。
即ち、『ポッキー』『コスモス・クラブ』『PURE』『天使たちの午後3 リボン』といったように、ラブコメ或いは学園モノ路線が増えているのである。

学園を舞台にした恋愛モノは、今日のアダルトゲームでは最大派閥であり、アダルトゲームとして最もポピュラーな内容になっている。
確かに、多数の女の子との交流やヒロインの描写を無理なくしっかり描くには、学園モノは非常に便利な構造と言えよう。
前年の88年に実質的なヒロインという概念が生まれて、ヒロインを掘り下げ詳しく描く方向性が強まることにより、学園モノは増えるべくして増えていったということなのだろう。

もちろん、これまでにも、設定的には学園というものは存在していた。
有名どころでは、『天使たちの午後』があるだろうか。
しかし、出会うキャラを次々犯っていくあの内容は、キャラを描くというのとは明らかに路線を異にする。
繰り返しになるけれど、『天使たちの午後』は、見た目に美少女が使われたから美少女ゲームの元祖なのであって、内容的にはまだ美少女ゲームとしての異なる方向性は見出せていなかった。
内面的にもヒロインを描くということは88年に生じたものであり、それが浸透していったのが89年と考えるのが無理のない解釈なのだと思う。

尚、今日の学園モノは、序盤に共通パートとして日常シーンが描かれ、後半の個別ルートに入ってからストーリーが動き出し、目的が明確になるケースが多いかと思う。
他方でこの時期の学園モノは、ストーリー性もあるという点では共通なのだけれど、ゲーム開始時に事件が発生し、その解決を目指すなど、目的のない日常シーンというのはなく、ゲーム開始時から目的が明確な作品が多く、その点で異なると言える。
私見でいうならば、90年代半ばの育成・恋愛SLG流行時の名残が、今日の目的のハッキリしない日常シーンなのだと思う。だから萌えを目的とするキャラゲーでは日常パートは必要なのだけれど、いわゆるシナリオゲーでは目的のない日常パートは不要であり、過去のシステムの名残に縛られることはナンセンスである。

<ストーリー・流行>


他方で、学園モノ以外では、ミステリーであったり何かしら事件性のあるゲームも多かった。
ミステリー系と学園モノ、中には両方を兼ねて一方に分けるのが困難なもゲームもあるが、両者が半々で当時のアダルトゲームの大半を占めていた。

ちなみに、当時の一般PCゲームでは、ミステリー系とSF系が2大派閥的な感じであったが、SF系は技術力にものを言わせた演出重視作品に多い。
しかし、アダルトゲームでそれをやることは難しかったことから、演出重視の理由でSFを選ぶケースが少なく、必然的に作品数が少なかったと言えるのではないだろうか(だからこそ、ハードの性能が向上したPC98普及時に、アダルトゲームでSF作品が急激に増えたといえる)。

逆にミステリー系は事件性があれば探索目的でキャラを動かしやすく、システム面での主流であるコマンド選択式との相性の良さもあって題材として用いられやすかったのだろう。だから数も増えたと。
代表例としては『デリンジャー』『夜の天使たち ~私鉄沿線殺人事件~』の中藤美希ちゃんシリーズや『リップスティックアドベンチャー2』『プライベートスクール』などが挙げられる。

ところで、これら学園モノとミステリー系は、決して排斥しあうものではない。
学園を舞台にして女の子との交流や可愛いヒロインを描き、横の広がりを持たせつつ、何かしらの事件性を持たせることで縦の広がりとストーリー性を持たせられることから、むしろ相性が良いとさえいえる。
だから両者の良いとこどりのような、何らかの事件が発生する学園モノはこの頃から増え始め、PC-98時代の前半頃まで多数派の定番ジャンルとして定着していく。

その筆頭が、『晴れのちおおさわぎ!』(制作:カクテルソフト、販売:フェアリーテール)になるのだろう。
後のPC-98時代前半の多数派の形を作り上げ先駆けとなったのが、この作品だったように思う。

当時のキララは、カクテルソフトやフェアリーテールブランドを有し、後にアイデスと社名をかえ、更にはF&Cになるのだけれど、ややこしいことから、以後は基本的に、個人的に馴染みのあるアイデスと表現する。
で、そのアイデス系列として見た場合には、89年は『きゃんきゃんバニー』が発売された年でもある。
きゃんバニは多くシリーズ化され、その過程でジャンルも変えていっている。特に後のプルミエール(1992)やEXTRA(1993)でスワティが絶大な支持を受けたこともあり、きゃんバニシリーズがアイデスの看板作品というイメージが次第に定着していったことは事実なのだろう。
しかし初代きゃんバニにはスワティはいないし、ゲーム内容に関しても従来からのナンパ系作品を最高レベルの美少女キャラで作ったということで、もちろんこれはこれで大人気作品なのだけれど、方向性としては従来のゲームの延長上の作品でしかなかった。
そのため、アダルトゲームにおいて新しい方向性を見出したという観点からは、『晴れのちおおさわぎ!』の方が大きな意義を有するように思う。

上述の通り85年からは、『天使たちの午後』を擁したジャストが業界の中心という印象があった。
また、PC-98が普及した90年代以降は、東のエルフに西のアリスと呼ばれるようになっていく。もちろん、3強という場合にはアイデスが含まれるのだが、実質的にはエルフの一人横綱であり、アイデスは永遠の三番手という印象も強かった。
しかし、厳密には、ジャストが中心だった時代とエルフが中心になる時代の間の期間というものが存在する。
即ち、80年代後半から内容面でアダルトゲームを動かしたのはアイデスであり、『同級生』の発売された92年末頃までは、トップに位置していたように思う。
少なくともアダルトゲーム史的な観点でいうならば、80年代後半から92年頃までは、ジャストやエルフを主にすると業界の流れや変遷が掴めないのであり、アイデスを中心に据えた方が特にストーリー的な側面では流れが掴みやすい。

尚、ここで後の3強云々を持ち出したのは、89年はエルフブランドが誕生し『ドラゴンナイト』を、アリスソフトが誕生し『ランス』を、カクテルソフトが『きゃんきゃんバニー』を出したということで、後の3強のブランドが全て生まれつつ看板タイトルが揃い踏みしたからである。
そういう意味では、89年というのは1つの区切りにもしやすい、分かりやすい年だったのではなかろうか。

<ストーリー・その他>


という感じで、89年のアダルトゲームにおける、美少女ゲーム的側面の話は終わりになる。
しかし、実はここが言葉の難しい部分でもある。
エロゲーとはアダルトゲームのことであり、昔は美少女ゲームとも呼ばれることが多かったんだよと言われると、美少女ゲームの歴史を振り返れば昔のアダルトゲームの歴史もたどれるような錯覚をおぼえる。しかし、美少女ゲームという表現の場合には、美少女に頼らないアダルト要素のあるゲームが外されることがありうるので、注意が必要なのである。

少し余談になるが、かつて読んだ評論で、ストーリーが良くても美少女じゃないから(或いは恋愛要素が絡んでいないから)アダルトゲームの範囲外としつつ、そうやって除外しておきながら、昔のアダルトゲームにストーリーの楽しめるものはないと言い放つ。
その一方で近年はストーリーも楽しめるゲームが増えたと言い、その場合は絵的に弱く恋愛中心でなかったり抜けないようなものまで含めているケースが多いわけで、そうした姿勢に度々矛盾を感じることがある。
そりゃそうだろう、ストーリー中心のものを除外して考えたら、残りにストーリーの良いものがあるわけないのだから。

美少女が出てくるか、或いは恋愛要素が絡んでいるかという枠を外してみた場合、89年のアダルトゲームというのは、明らかにストーリー重視の路線を歩んでいました。
そしてそれは、今のエロゲのように必ず恋愛要素を絡めたものではなく、方向性自体も多様になっていた。だからこそ、アダルトゲームの黄金期の幕開けはこの年だと考えるのである。

例えば、ストーリー重視路線に大きな影響を与えたとして有名なのが『イミテーションは愛せない』である。
これはジャンルとしてはSFになり、設定以外ではアダルト性が薄く、またゲーム性も希薄であり、純粋にストーリーで読ませるタイプの作品だった。
もっとも、映画「ブレードランナー」の設定をアダルトゲーム風に変えたものとも言え、そこで若干賛否分かれうるのかもしれない。

他には、『タウヒード』(チャンピオンソフト)がある。
こちらも脱ぐCGが1枚あるだけで、アダルト性はかなり薄いのだが、中東から始まり世界を股にかける冒険物で、以後のアダルトゲームには非常に珍しいタイプの作品になっている。
因みにライターは元アリスソフトのとりさんである。

ここまでは普通に、読ませるタイプの作品なのだが、よりアダルトゲームらしいぶっ飛んだものもある。
『韋駄天いかせ男2 人生の意味』(ファミリーソフト)は、「いかせ男」がストーカーの如く一人の女の子の出生から結婚までの半生を、時に変態行為を交えながらもずっとつきまとうもので、文字通り「人生」を扱った作品だった。
『韋駄天いかせ男 3.戦後編』では、敗戦した戦後の日本をブラックユーモアで調理した、内容的にやばい作品になってた。

そして忘れてならないのが、『アソコの幸福』(ツァイト)である。
真摯に変態を扱い、哲学の境地にまで至る。まさに変態紳士のための入門書でありバイブルとして、アダルトとしてのストーリー重視を体現した作品であった。
『アソコの幸福』は『ねじ式』と共に「名作浪漫文庫シリーズ」の1つであり、アダルトゲームなのだけど、明らかに他の美少女ゲーム群と立ち位置を異にするゲームであった。
もっとも、このような一般ゲーム的思考の延長上のアダルトゲームは、この89年くらいが最後かもしれない。

<融合>


ところで、個人的に一番面白いと感じた作品ではないのだけれど、それでも、この年を最も象徴する作品として一本挙げるのであれば、それは『ドラゴンナイト』なのだろう。
正確な本数は分らないが、エロゲ初の売上10万本超えも、おそらく『ドラゴンナイト』ではないかと思われる。それくらい売れた作品だった。

『ドラゴンナイト』が支持された理由として、単純にキャラが可愛かった、即ちエルフの高品質なグラフィックによる外見的な部分が大きかったのは確かなのだけれど、それだけでは説明が足りないように思う。

本作はRPGであるところ、ここで88年までの流れを振り返ってみると、アダルトゲーム初の本格的RPGが誕生したのが87年であり、88年には数が増えている。アダルトゲームにおけるRPGの比率が最も高くなったのは90年及び91年なのだが、翌90年に迎える本格的な流行を前に徐々に数が増え、需要が高まっていたのが89年といえる。

他方で、88年には、決して単なる攻略対象には留まらない、キャラとしての個性も描いた「実質的な意味でのヒロイン」という概念が誕生した年とも言える。そして上述のように、それが更に浸透していったのが89年なのだろう。本作においても、主人公と共に行動するヒロインが描かれており、当時の先端の構造であったといえる。

即ち、88年に生まれた大きな新しい潮流、RPGの拡大とヒロイン概念の浸透という二つの流れを受け継ぎ、かかる要素を兼ね備えていたのが『ドラゴンナイト』なのである。
したがって、売れるべくして売れたということができるし、両方の要素を兼ね備えているからこそ、この年を象徴する作品といえるのである。

<最後に>


89年は大局的な視点でみるならば、ブランド的にも作品的にも98時代の美少女ゲームの基準となる構図・構造が出来上がった年であった。
その点は、個人的にはもっと理解が広まるべきだと思う。

他方で個々の作品を見てみると、ゲームデザイン的にはあまり新しいものがなく、既存のシステムも簡略化の方向を辿り始めた一方で、明らかにストーリーで勝負する姿勢のゲームも登場し、まだRPGやSLGの本格的発展の前であることからも、全体的にはストーリー重視の流れが強かった年だといえよう。

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カテゴリ「エロゲの歴史」内の前後の記事





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お久しぶりです。この時代は僕も知らなくてためになる話です。
これらをつくった人はほぼ第一線を離れてるんでしょうね

お久しぶりです。
アリスのTADAさんなどまだ作っている方もいますし、だからこそ私もまだプレイしているのですが、大半は去っていったのでしょうね。
なくなったブランドも多いですし、やっぱり寂しいですね。

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