アダルトゲームの歴史 1988年 その1

アダルトゲームの歴史 1988年 その1

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第7弾ということで、今回は1988年の1回目になる。

1988年に発売されたアダルトゲームは、多少の増減はあるだろうが、70本を超え、未確認も含めると80本に到達するとのことで、前年より更に増えている。

<実質的なヒロインという存在の誕生>


1988年のアダルトゲームと言うと、今の視点からずば抜けて知名度が高いと思える物は、おそらく2本ではなかろうか。その内の1本が『カオスエンジェルズ』であり、ゲームシステムにおいて特徴があることから、今回ではなく次回扱うことになる。
そしてもう1本が『リップスティックアドベンチャー』(フェアリーテール)であり、こちらはストーリー・シナリオが特徴であることから、今回扱う。

『リップスティックアドベンチャー』は後に独立してエルフを作る蛭田昌人氏が制作したコマンド選択式のADVで、独特の軽いノリと推理モノとしてのシリアスさが融合した傑作であった。
さて、先に忠告しておくのだけれど、先程、1988年の有名な作品として2本挙げたし、この2本が有名であることも事実なのだろう。
しかし、周りを見ていると、1988年のアダルトゲームとしてこの2本を挙げれば十分みたいな、この2本だけ優れていて他は劣るかのような印象を与える記事を目にすることも多く、それは正直おかしな話だと思う。
ストーリー重視のミステリーものとしては、1987年には『殺しのドレス』があり、その後もシリーズ化されている。『リップスティックアドベンチャー』との間に大きな差はない。しかし、当時のプレイヤーが引退することで名作も語られなくなり、次第に埋もれていく。古くても埋もれないのは、必ずしも作品が突出しているからというわけではなく、今にも通じる要素があるからという点も大きいのである。『リップスティックアドベンチャー』の場合、シナリオは蛭田さんだし、蛭田さんはエロゲユーザーでちょっとでも歴史に興味のある人ならば知らないはずがない存在である。『殺しのドレス』シリーズがPC98時代までで、WIN時代に途切れたのに対し、蛭田さんはWIN時代になってもゲームを作っていたのであるから、途切れずに続き、それが『リップスティックアドベンチャー』の知名度にも反映されているのだろう。私自身は『リップスティックアドベンチャー』を高く評価している人間であるが、だからと言って『リップスティックアドベンチャー』だけを推したいというわけではないのだ、上記の経緯を理解してもらいたいということは忘れないで欲しい。

閑話休題。
五郎と音美の軽妙な会話のある『リップスティックアドベンチャー』はシリアス一辺倒の一般PCゲーの推理ゲームと一線を画し、一般PCゲーの延長上ではない、新たな美少女ゲーム路線としての推理ゲームでもあった。

・・・とはいえ、それだけでは語り尽せないのかもしれない。
『リップスティックアドベンチャー』の最大の意義、言い換えれば前年に生まれたストーリー重視路線とこの作品とで、一体何が異なるのかという視点に立った場合、それは即ち、確固たる人格を持った魅力的な存在としての「ヒロインの誕生」にあるのではなかろうか。

ここで1つ、よく誤解されやすい点につき説明しておく。
昔のアダルトゲームの女の子は、エロいCGを見るための攻略対象にすぎなかったと言うのを、これまでに何度も見たことがある。
しかしそれは、確かに本当に初期の、80年代前半の野球拳系には妥当するものの、80年代全般的な観点からは誤りなのである。特に、80年代後半の作品には妥当しない。

むしろ攻略対象という意味では、今の方が妥当するのだろう。例えば今のノベルゲームは、ほとんどが純愛ないし恋愛系と陵辱系に分けることができる。伝奇だのバトルだの厨二だの、細かいジャンルはいろいろあるけれど、ほとんどの作品がヒロインと結びつく個別エンドを用意しており、恋愛をベースにおきつつ、その上に他ジャンルを混ぜたものがほとんどである。陵辱ゲームでは当然対象となるキャラが標的になるけれど、それ以外のゲームも大半が恋愛をベースに置いているから、結局どのヒロインも攻略の対象になっている。恋愛をベースと書くと抵抗がある人もいるかもしれないけれど、基本的に個別ルートがあってヒロイン単位でエンディングが用意されている構造のゲームがほとんどであることには違いはない。
つまり今のゲームの方が、ヒロインは攻略すべきものとの意識が強く働いているのである。

しかしPC-98時代までのゲームには、必ずしも恋愛という縛りがないため、恋愛ゲームではヒロイン単位でエンディングが用意されていても、それ例外のジャンルではストーリーに応じたエンディングが用意され、ヒロインを攻略対象としていないゲームが多々存在していたのである。
アリスソフトのアリスは攻略できないキャラとして有名であるが、98時代にはカクテルソフトのスワティも直接の攻略対象でないにもかかわらず絶大な人気を有し続けていた。もっとも、この両者はオペレーターとしてゲームの範囲外にいるとも言える。アリスは完全に物語外で、スワティは半分って感じだけれど。
エルフの、というか蛭田さんの場合はもっと徹底している。『リップスティックアドベンチャー』の音美は物語内のキャラであり、女子高生でありながら押し掛け女房的な存在でもあり、作品の中枢を担うキャラでありながらも攻略対象ではなく、主人公の横に並び同じ視線で行動を共にできる存在なのだ。
これまでのアダルトゲームにだって女の子は一杯登場しているが、脇役以外は攻略対象でありHのための存在でしかなかった。

そうではない、単なる性欲の矛先ではない、主人公の目線の先にあるのではなく主人公と並びうる内面を伴った一人の魅力的な女性という存在の確立が、前年までの作品と異なる最も大きな変化だったように思う。
『リップスティックアドベンチャー』には音美がいるが、エルフ設立後の『DE・JA』シリーズには「がちゃ子」がいる。
今ですら昔のゲームの女性キャラはHシーンを見るためのものという誤った認識を有している人がいるくらいだし、ましてや80年代半ばまでは実際にそういうゲームも多かったのだから、そうじゃないんだよと、ユーザーの認識を強制的に変化させるためには、おもいきったことが必要だったのだろう。そこで蛭田さんは、メインヒロインをあえてHの対象からはずす事で、単なる攻略対象ではない、主人公と同格な1人の存在としての「実質的なヒロイン」を作りあげ、ある種最大級のパラダイムシフトを起こそうとしただろう。
1985年発売の『天使たちの午後』のヒロインは、まさに攻略する対象でしかなかったのだが、そういう形式的なヒロインではなく、単なる攻略対象にとどまらないキャラクター性や内面を重視した「実質的ヒロイン」を伴ったゲームが、ここで登場したということが大事なのである。

変則的であるが、もう1つ面白い例がある。
テンプレな、いわゆる恋愛ゲームとされているものの多くは、ヒロインと結ばれて終わりである。つまりナンパゲーの延長で、ナンパに至る過程でのストーリー性を増したものが恋愛ゲームと呼ばれがちなのである。
しかし、恋愛って付き合い始めて終わりなのではなく、むしろそこから先の方が大事なのだろうにと思わないだろうか。
『天使たちの午後2  番外編』(ジャスト)のヒロインは主人公の義妹であり、開始時には既に主人公と愛し合う禁断の関係にある。主人公は義妹と別れて外国にいかなければならないわけで、その引き裂かれる2人の苦悩を描いた作品であった。
おそらく、『天使たちの午後2  番外編』辺りが「恋愛」を正面から描いた最初のゲームなのだと思う。しかし仮に、「恋愛ゲームとは主人公がヒロインと結ばれるまでの間を描いた物語」と狭く限定するのなら、『天使たちの午後2  番外編』は恋愛ゲームには含まれないのかもしれない。
それでも、少なくとも『天使たちの午後2  番外編』は、ヒロインは既に攻略済みであり、ゲームはその後の2人の心情を描いているのだから、ヒロインは攻略すべきものという構図が既に崩れていることは間違いないといえる。

業界の中心という意味では、ジャストからキララ(カクテルソフトやフェアリーテールを擁した後のアイデス、更に後にF&Cに)が独立し、そのキララから翌89年にエルフが独立していくことになる。だから業界の主流という観点からは、まだジャスト中心に語るべきなのだろうし、最大手として市場の中心にいたのはジャストなのだろうが、セールス的な中心と作品内容の先端とでは対象が異なってくる。売上と名作が一致しないというのは、いつの時代も同じだからである。
そして作品の先端という観点からは、そろそろジャスト中心では厳しくなってくるのかなと。ここからはジャストから独立したキララ中心に見ていった方が据わりが良いように思う。
というのも、『天使たちの午後2  番外編』では、実際はほとんど主人公の苦悩の話であり、メインヒロイン自体は出番があまりないのである。確かに、攻略だけが目的ではないという意味では『リップスティックアドベンチャー』と同様なのだけれど、先程から重視している「実質的な意味でのヒロイン像の確立」という意味では、『リップスティックアドベンチャー』より劣るのである。
具体的には89年のところで触れるのだけれど、ジャストは翌89年に別ブランドから「中藤美希」というキャラにより、「ヒロイン像の確立」に励んでいる。つまり蛭田作品もジャストも、向かった方向は同じなのだけれど、ジャスト作品は蛭田作品より少し遅れているのだ。
したがって、ジャストが市場的には最大手であったとしても、内容面において先端でなくなったというのは、こういう辺りからもうかがえるように思う。

<ストーリー>


ここで少し目先を変えて、ストーリー全般を見てみると、少し面白い傾向が見えてくる。前年までは何かに偏っていたり、一般PCゲーの流行の影響が濃く出ていたものだけれど、それが88年になると更に多様性を含むようになってくるからである。

例えば、『やりたい放題』『テレホンクラブストーリー』といった昔から続くナンパモノや『女子高生アイドルおさな妻奮戦記』『セーラー服いけない体験告白集』といった女の子の観察モノは古くから続く路線になるだろうか。
『リップスティックアドベンチャー』『ペンションストーリー 花の清里』といった推理モノやSFモノの『第4のユニット2』は、もはや別個の道を歩み出しているとは言えるものの、ジャンルとしての広い意味では一般モノでも流行している路線とも言えよう。
しかし『艶談・源平争乱記 いろはにほへと』『艶談・徳川興隆記 ごらくいん』のような歴史モノは、一般モノや現在を含めても非常に珍しい。
また『ラブリーホラー おちゃめなゆうれい』『ドッキン美奈子先生』といったコメディ・ラブコメ路線は、一般モノでは生まれにくいジャンルであり、アダルトゲームらしい作品が出てきたといえる。

<グラフィック>


アダルトゲームの大半はADVであり、特に今はノベルゲームが多い。
そのノベルゲームを例にして説明すると、通常は背景の上に立ち絵が表示され、イベント時には一枚絵が表示される。
なお、一枚絵は、90年代まではよく使われた言葉なのだけれど、近年はイベントCGという言葉が用いられることが多いので、最近のユーザーだと馴染みがないのかもしれないけれど、便宜上、ここでは一枚の絵で描かれたイベントCGを一枚絵と表現する。
もっとも、PC98時代までだと、ノベルゲーム以外のADVもあるし、全部一枚絵だけで進むものもあるし、背景と立ち絵が区別されていても、その立ち絵が背景に則して用意されて分離が曖昧なものもある。もちろん立ち絵を多用するゲームもあり、作品によってバラバラである。だから今のノベルゲームのように安易に立ち絵+背景と一枚絵の2つの場面に分けて考えることはできないのだけれど、便宜上、大雑把に2つの場面に分けて考えることにする。

そうすると、アダルトゲームにおいては美少女の存在が肝であるし、いつの時代もエロいCGを見てもらいたいという理念は共通していることから、立ち絵よりもまず一枚絵の質の向上を図ることが優先されることが多い。
最初は美少女と呼べないようなキャラも多かったが、85年には『天使たちの午後』が登場し、美少女と呼べるようなキャラが誕生。87年には、今でも通じるような作品として有名な『悪女伝説2』が発売される。その『悪女伝説2』にしても象徴的な画像は一枚絵になるし、『妖姫伝』の猟奇的な画像にしても、やっぱりインパクトを与えたのは一枚絵なのである。そういう一枚絵の充実と比べると、立ち絵というのはどうしても後回しになってしまう。これは美少女を大事にするアダルトゲームの性質上、そうならざるをえないのであろう。
そうした中で登場したのが、88年の『グラムキャッツ』であった。

『グラムキャッツ』はグラフィック全般が良いので、演出でプレイヤーを惹きつけることに成功した最初のアダルトゲームと言うこともできるかもしれない。
それくらい見事だったのだけれど、上述のように一枚絵だけなら他所も頑張っていたところがあるので、他所より圧倒的に優れていた点となると、やっぱり立ち絵及びその動きになるのであろう。
本当は個別記事にある絵を見てもらった方が分かりやすいのだが、主人公が起きてから服を脱いで着替えるシーンなども全部アニメーションで処理するなど、立ち絵が良く動くのである。今でも立ち絵が動かないのもざらにあるし、動くと言われても種類が多少多かっただけだったりピョンピョンと飛び跳ねるだけで人形劇でも見ているような物も多い。それを考えると『グラムキャッツ』は、さすがに画質こそ今のゲームよりはるかに劣るものの、動きだけなら今の大半のアダルトゲームより優れている。

グラフィック、特に演出という部分では、SYSTEM HOUSE OH!の『魔剣士KUMIKO』『媚少女NORIKO』『堕天使KYOUKO』といった作品も外せない。
上述のように今のアダルトゲームは一枚絵と立ち絵が基本となるところ、たまに立ち絵で表現しているパートで一枚絵の一部を挿入し、カットインとして用いているケースがある。カットインの手法も、PC98時代まではわりと多かったのだが、WIN初期に激減し、ゼロ年代後半からまた増え始めた手法である。
このカットインの手法を大胆に用いたのがSYSTEM HOUSE OH!の上記作品であり、横長や縦長の一枚絵よりは小さいサイズのグラフィックを随所でカットイン的に用いており、アダルトゲームとしては斬新な手法であった。

ちなみに、SYSTEM HOUSE OH!の一連の作品には他にも特徴があり、CGとしては主人公の女性が胴体から真っ二つにされるものなど残虐な描写もあり、時代故に音質は良くないものの、パートボイスもついていた。
音声に関しては、ジャストのゲームでは「ジャストシステム」という別売の道具を買えば機械的な音声が聞けたのであるが、ゲーム単体で音声が聞けるとなると、SYSTEM HOUSE OH!あたりが最初ではないだろうか。ちょっとここら辺は確証は持てないところもあるけれど、少なくとも88年には音声付のオリジナルゲームが出ていたことは間違いない。

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