アダルトゲームの歴史 1986年

アダルトゲームの歴史 1986年

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第4弾ということで、今回は1986年を扱う。
1986年は、今日につながる実質的なアダルトゲーム元年と言えるのかもしれない。

1986年に発売されたアダルトゲームは多少の増減はあるかもしれないが、おそらく35本前後になる。したがって本数の上では、昨年の倍くらいに伸びたことになる。

<制作会社の大移動>


前年である1985年のおさらいから入るが、1985年は1983年から次第に増していったゲーム性重視の傾向の集大成のような年だった。
後に一般PCゲームの大手となったブランド、例えばエニックスや日本ファルコムや光栄などもアダルトゲームを製作していたことも相まって、数こそ少ないものの、良質で凝った作品が多かったのである。

それでは、そういう良質な作品を作っていたブランドは、1986年にはどうなったのか。
端的に言うならば、アダルトゲームを作らなくなったのである。
例えばENIXの堀井氏は、1986年にはファミコンで『ドラゴンクエスト』を出しているし、光栄は一般PCゲーで『信長の野望全国版』などを出している。どちらも今日までシリーズが続いているビッグタイトルである。一般PCゲームかファミコンかという違いこそあるものの、どちらもアダルト性を要しない分野へと移っていったのである。
一応スクウェアの『アルファ』に、ちょっとだけヌードっぽいシーンがあるので、これをアダルトゲームの範疇に含めて良いのかについては賛否分かれるかもしれないが、後の家庭用ゲーム機における大手が、アダルトゲームにまだ関与しているというケースはそれぐらいといえる。

したがって、アダルトゲームにおいては、昨年までの大手が一斉に去ってしまったのである。
そして、その代わりに新ブランドやアダルト専門のブランドが活躍し始めるのであり、アダルトゲームを製作する会社の多くが入れ替わったという点において、86年は実に変化の激しい年だったのである。
こういう変化の仕方、製作会社の大規模な変動というのは、以後はほとんどないだけに、非常に興味深い年といえる。

なお、個人的には、大手が集大成を次々に出した1996年が1985年と重なり、大手が出し控えた間に若手ブランドがいろいろ出てきた点で1997年が1986年に重なってみえる。
もちろん、そうは言っても、エルフ・アリス・アイデスの場合はアダルトゲーム作りをやめたわけではなく、大人しかったのは1997年の後半までであり、それ以降はまた力を見せつけている。
だから完全に勢力図が変わったという点では、やはり1985年から1986年の変化が最大なのである。

そういうわけで、ブランド的には勢力図がかなり変化したことになるし、発売タイトル数も大幅に増えたのだけれど、前年までの最大手が抜けたことにより、全体的な作品の質は一旦下がったように思う。

<ディスクマガジン>


もっとも、それは必ずしも全てが粗製濫造というわけでなく、時代のニーズに合わせて態様が変化した面もある。
具体的に見てみると、前年の美少女ゲームという概念の登場によって、とにかく美少女を見せたいという趣旨のゲームが増えていった。
例えば『美しき獲物たち』のようなCG集、それに近いほとんどCG集ってノリのものやディスクマガジン形式の作品の登場である。
ちなみに、この現象と同じようなことは、windows95登場時にも発生している。可愛い絵を見せたいという欲求が強まり、それに対応できるだけの技術の向上が伴うと、どうしてもCG集の類が増えてしまうのだろう。

なお、ディスクマガジンは、紙面による情報誌の役割を電子媒体でやってしまおうというものであり、これはこれでいろんな系統のものがあるのだが、基本的には幾つかの読み物とミニゲームが収録されているって感じの構成になる。
ディスクマガジンの具体例としては、チャンピオンソフト(現在のアリス)の『ZETA』シリーズになるだろうか。『フェアリーズレジデンス 学園』は話題にもなったし、個人的にヒロインもかなり好みだったのだけれど、これなんかも基本は読み物で、そこに、ところどころで画面クリックを導入した感じになっている。
ディスクマガジン系は、PC-98時代までは、それなりの数が出ていた。そのため、規模的には決して無視できないものがあると考えられる。
そしてCG集や簡単な読み物が中心ということで、現在の区分から言えばADVに含まれると考えるのが一番相応しいように思う。

ただ、ここら辺は時代ごとに捉え方も異なってくる。
今ならゲーム性があるのかとか細かいことにあまりこだわらず、テキストがあってCGがあって音楽があれば、広い意味でノベルゲームとして、ひいてはADVとして認知されている。
しかし当時は、そういう完全な読み物系はADVとは異なるジャンルとして、ゲームではない別のものと認識していた人も少なからずいたのである。ディスクマガジン系としては他にも、数年後にはデジタルコミックという表現も出てきたのだが、そのデジタルコミックにしても、ADVやゲームとは違う領域のものというイメージが強かったのである。
なお、ディスクマガジンにはミニゲームが含まれているものも多いために、それでという理由もあるが、いわゆるADVとは異なるという側面が強いこともあり、表記としてはADVではなくETC(その他)であったり、雑誌のテクノポリスなんかでは端的にディスクマガジンというジャンルで表現し区別している。

そんなのはどっちでも構わないよ、大した違いでもないだろとも思う人もいるかもしれないが、これはこれでいろいろ複雑な問題も生じうる。
例えばADVの歴史を振り返る場合、ADVのスタンダードな形式は時代と共に変わっていく。その大きな変化の1つとして、主人公とプレイヤーの関係というものがあり、当初は主人公≒プレイヤーとしてプレイヤーの分身たる主人公を動かすことで進行していたものが、次第に主人公≠プレイヤーとして読み物という形に変わっていったことが挙げられる。
では、主人公とプレイヤーの完全な分離はいつ生じたのかと考えると、家庭用ゲーム機のゲームでは、90年代後半頃になってしまいかねない(『かまいたちの夜』とかでも半ばプレイヤーの分身のようなものだし)。
アダルトゲームで考えればもっと早く、90年代前半とか80年代末頃にまで遡れるのだろう。
しかしディスクマガジン形式や多少のテキストのあるストーリー性を持ったCG集もゲームの範疇に含めるならば、86年辺りで既に成立しているのである。
当時は主人公がプレイヤーの分身でない、読み物形式の作品をADVとして認識していなかっただけであって、そういうゲーム自体は存在していたということなのである。

<ノベルゲームの誕生>


今度は、もう少しゲームの形式に従って考えてみると、一般PCゲーや家庭用ゲーム機のADVは、ゲーム性も大事にしようということで、コマンド選択式ないしはそれに準ずる構造を中々崩さなかった。
ちなみに、家庭用ゲーム機初のノベルゲームは1992年の『弟切草』であり、一般PCゲーでは1988年に『ザ・キング・オブ・シカゴ』や、システムサコムの「ノベルウェア」と呼ばれた作品らがある。

しかしアダルトゲームの場合、一方では面白いゲームを作れないという事情もあるのだろうが、他方ではCGを見せよう・テキストを読ませようという意識が強いものがあったことから、コマンド選択による言葉のキャッチボールのような構造でゲーム性を演出させる必要はなく、早く先の展開を見せるために、選択によりダイレクトに次の展開につながるノベル的構造に早くつながりやすかったのだろう。
そこで、ディスクマガジン形式でない、もっと純粋なノベル形式のゲームの登場という点では、1986年には『シンデレラペルデュー』が登場する。
何をもってノベルゲームと捉えるかにより、ノベルゲームの起源は更に遡れるかもしれないが、今現在において、皆がノベルゲームとして想像する要素を全て兼ね備えた作品としては、『シンデレラペルデュー』がおそらく最初の作品となる。

「テキスト」に「絵」と「音」が融合し、アニメでもない小説でもない、新しい手段として物語を表現する。そこに可能性を見出し、アダルトゲームの、特にノベルゲームをプレイする人も多いと思う。そして、そうした理念は、何もサウンドノベルなどを持ち出すまでもない。
ノベルゲームの発祥はアダルトゲームであり、1986年からの歴史を有しているのである。
後にエルフやアリスといった革命児の登場により、大手ブランドがゲーム性などを付加していった時期もある。しかし技術の乏しい中小ブランドなどでは、ノベルゲームの歴史が受け継がれていたのであり、アダルトゲームこそがノベルゲームの起源であることは、少なくともアダルトゲーマーならば認識してもらいたいものである。

<ゲームジャンル>


ゲームジャンルという面では、やっぱりADVが多かったのだが、アダルトゲームにおける特徴的としては、依然としてコマンド入力式が多かったことが挙げられる。
一般PCゲームを見てみると、1986年頃には、ほとんどコマンド選択式になっているのだが、アダルトゲームはシステム的には後追いの感も強かったわけで、まだコマンド入力式も多かったのである。何かしら大物ソフトが出てくると、それで時代が変わったと言いたくなるのだけれど、急激には変化しにくいってことなのだろう。

代表作としては『天使たちの午後』を作ったJASTによる『エリカ』であるとか、『ロリータ姫の伝説』であるとか、『ポップレモン』なんかが挙げられる。

なお、『魔法使いの妹子』ではマルチエンドになっており、アダルトゲームにおけるマルチエンドもこの頃から登場したと言える。

もちろん、『クリスチーヌ』のようにコマンド選択式のADVも出ており、いろいろ並存していた時期でもあった。

これまでは典型的な入力式や選択式やノベル系を紹介してきたが、それらの基礎システム以外の形式のゲームも存在する。
ADVには、ゲーム性を増そうという観点から、画面を直接クリックさせよう、プレイヤーにはどこをクリックするべきかを考えてもらおうって発想がわりと古くからある。
このシステムは推理モノの探索部分とも非常に相性が良いところ、それ以外にも、例えば女の子の体を触ろうってゲームとも相性が良い。
そこで『聖女伝説』では、基本はコマンド入力式のADVで進むものの、半分の割合でアイコン選択後に直接女の子をクリックするという形式が導入されている。
この時点ではまだ画面クリックは従的な存在だったのだが、続編たる『聖女ぱにっく』では、完全に画面クリックオンリーに変更されている。
画面クリック式、つまりはポイント&クリック(P&C)式ADVの登場である。
前述のように、チャンピオンソフト(アリスソフト)もノベル系に画面クリックの要素を組み合わせることを得意としていた(そのアリスが後にこういう形式のゲームを全く作らなくなるのだから、皮肉なものである)。

もっとも、当時も一応マウスはあったのだけれど、まだ標準的なものではなかった。マウスが当り前の存在になって、フルマウスオペレーションがウリとなったゲームが出てくるのも、後のPC-98時代になってからの話である。
したがって、PC-88でP&C式となると、キーボードで動かすことが基本になる。ましてやアイコン方式を採用した場合には、使用するアイコンを選択するためにカーソルを画面のアイコン欄に動かし、選択後に今度は対象に向けてカーソルを動かすことになるものだから、どうしてもかなりの手間になってしまう。個人的な意見としては、発想は悪くないものの、相性を考えればやっぱりこの時期のP&C式は時代が早すぎてかなり無理があり、面白さよりも面倒さが先立ってしまう、未成熟な、マウスが必須と思わせるシステムであった。
このジャンルに関しては、マウスの標準化とセットでもあり、1991年の『ELLE』の登場により、ジャンルとして成立したといえるのであろう。

ADVが主なので、その話ばっかりになっているが、他には『ソープランドストーリー』のようにSLG+RPGみたいなゲームもあったし、『177』のようなアクションゲームも少数ながらあった。

<グラフィック>


グラフィックでは、何といっても『アルファ』のアニメーションだろう。

他にも、『がんばれ! 美樹ちゃん』では4コマ漫画が新鮮だったし、それがまた動くものだから、インパクトが大きかったものである。
アダルトゲームにおいては、忘れた頃に漫画的手法を用いた作品が登場し、その度に斬新であるとか、新しい試みのように持ち上げられるが、意外とその起源は古く、『がんばれ! 美樹ちゃん』が漫画的な演出を用いた最初の作品といえよう。

<ストーリー>


ストーリーについては、『アルファ』や『エリカ』のようなSFモノや、『魔法使いの妹子』や『クリスチーヌ』のようなFTモノなど、一般PCゲーのADVの流行路線と近い内容の物も結構発売されている。
ナンパモノも相変わらずあるし、前年の流れを受け継いだ作品も存在はする。

しかしながら、何か漠然とした印象としては、この年は表面的には薄かったり、あっさりした印象が強いのかなと。
今の萌えとは雰囲気は全く異なるのだけれど、いろんな女の子を見てくださいって女の子のCGを中心にした作りは、萌えゲーと方向性としては結構似ているのかもしれない。

ストーリーに関しては停滞気味であったかもしれないが、美少女を強調した作品数が増えたことで、またフェアリーテールレジデンスの派生版で「~編」って感じでいろいろ出されたこともあり、美少女の中においての属性面での幅が広がった年ではあったのだろう。

それとも関連するのか、例えば『ロリータ姫の伝説』で糞をかき混ぜさせられたり、『ソープランドストーリー』でソープを経営してみたり、『ザ・ピーピング』で延々覗きをやってみたり、シチュ的にも結構マニアックなものが増えた年でもあった。

極めつけは『177』で、これは刑法177条の強姦罪から採ったものである。
ゲームとしては、女の子を追いかけて捕まえたらレイプという、非常に単純なアクションなのだが、その設定が災いしたのか国会で取り上げられた初のアダルトゲームとして今でも有名である。
なお、国会の言葉からインパクトはあるが、その後に特に規制がなされたわけでもないし、アダルトゲームの発売に影響を及んだ形跡もない。この事件自体を過大視するのは妥当でないと考える。

<総括>


全体として、ストーリーとしては大手が抜けたことで後退した感すらあるものの、属性やシチュなどで、よりアダルトゲームらしいものが出てきたというところなのだろう。

前年までは、大手を中心に一本の作品としてのゲームがまずあって、そこにちょっぴりアダルトな要素も混ぜるって感じも強かったのだが、1986年は、製作会社が代わったこともあり、アダルト性や美少女性を前面に押し出した作品が増えた。だからこそ、属性や個性的なシチュも増え始めたのだろう。
1985年までのアダルトゲームと、1986年以降のアダルトゲームは明らかに異なっており、そこにはある種の断絶すらも感じさせる。実際、製作会社の多くが入れ替わっていることから、無理に連続性を持たせて語る必要もないのであろう。
ストーリー性やゲーム性では前年よりやや退化した面もあるのだが、美少女ゲームとして後につながる属性や設定の雛形が生まれたのが1986年なのであり、今日につながる実質的なアダルトゲーム元年は、この年と言っても過言でないといえる。

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