『Summer Pockets』

『Summer Pockets』

『Summer Pockets』は2018年にWIN用として、
Keyから発売されました。

11年ぶりに、Keyらしい作品が帰ってきましたね。

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<概要>


ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
厳密には、簡易マップ上から移動先を選ぶタイプになります。

あらすじ・・・
亡くなった祖母の遺品整理のために夏休みを利用して、
鳥白島にやってきた主人公の鷹原羽依里。
祖母の思い出の品の片付けを手伝いながら、
初めて触れる「島の生活」に戸惑いつつも、順応していく。
海を見つめる少女と出会った。
不思議な蝶を探す少女と出会った。
静かな灯台で暮らす少女と出会った。
思い出と海賊船を探す少女と出会った。
島で新しい仲間が出来た。
この夏休みが終わらなければいいのにと、そう思った。

<総論>


この10年を振り返ってみると、自分にとってのKeyは、
期待を裏切られ続けた10年だったように思うわけでして。
外部から呼んだライターらによる新作は、
完成度が低いうえにKeyらしさもなく、
オリジナルアニメは出るたびにクオリティが下がり、
もうKeyはダメなのかなと、そう思わざるをえませんでした。

そうした中で発売された本作。
率直な感想を書くならば、面白かったです。
それも2007年のリトバス以来、約11年ぶりとなる、
Keyらしいと感じさせてくれる作品でした。
鍵作品を、今回、初めてプレイするという人もいるでしょう。
また、鍵作品自体は何作もプレイしているよという人でも、
もうリトバスのオリジナル版からも11年近く経っているので、
リアルタイムでオリジナル版をプレイするのは、
これが初めてという人もいるでしょう。
そのような人たちにとっては、
現在の技術水準で作られ、Keyらしさの伴った本作は、
とても面白いものに見えたと思いますし、
素晴らしい名作に感じられる可能性も十分にあると思います。
私は、古い作品でも全く気にならないタイプですが、
システム周りとかグラフィックとか、
少しでも古いと楽しめなくなる人も結構多いですし、
現在の水準でKeyらしさを感じられる作品も、
もうずっと出ていなかったわけですからね。
PCゲーを始めてから10年以内という人に対しては、
本作をプレイしてみることを強くおすすめしたいと思います。

他方で、問題があるとするならば、
それは、リトバス以前の作品を、
リアルタイムでプレイしていたような人なのでしょう。
というのも、本作は、良くも悪くも鍵作品っぽいのです。
セルフオマージュかと思わされるくらい、
過去作品を連想させるようなシーンがいくつも出てきます。
もちろん、やっていることが似ているという指摘自体は、
『ONE』以降の作品にも常に存在していました。
しかし、『MOON.』からリトバスまでの作品は、
似たところはあったにしても、プラスアルファとなる、
何かしら独自の要素が加わったりしており、
それが異なる作品としての魅力を生み出しておりました。
本作の場合、各ヒロインの個別のシナリオは、
読んでいて単純に面白くはあるのですが、
過去の鍵作品の色が強すぎており、
単なる模倣にすぎないと感じてしまうおそれもあります。
そう感じさせないために、TRUEルートにあたる、
二つのシナリオを用意したのでしょう。
しかし、結論を先に書くならば、
この二つのシナリオがイマイチだったので、より一層、
同じことの繰り返しっぽさが目立ってしまったのです。

<感想>


もう少し具体的に見ていきますと、まず各個別シナリオですね。
ルート間の多少の出来不出来はあるかもしれませんが、
総じて、各個別シナリオ、個々のシーンは、
わりと良く出来ていたように思います。
ただ、夏を舞台にした作品、ひと夏の思い出を扱った作品も、
今では多数あるわけでして。
その中で本作の存在感を示すためには、
もう一つ核となるものが必要だったと思います。
例えば、主人公は祖母の遺品の整理のために、
舞台となる島に来ているわけですから、
その島の独自の風習と祖母の遺品とを絡め、
それらにまつわるエピソードで共通ルート等を作れば、
他作品との差別化もできますし、
作中での目的意識も早期に明確になり、
全体としてもグッとしまったストーリーになったと思います。
遺品整理に来たはずなのに、それはほったらかしだし、
どういう島なのかの説明も不足しているうえに、
何となく夏を満喫しているだけなので、
物語全体の核がないというか土台が弱いというか、
全体としてのまとまりに欠けているように感じてしまうのです。

ここにTRUEとなるALKAとPocketsが加わるわけですが、
まず単純にボリュームが乏しいです。
麻枝さんの作品は、緻密な設定で魅了するのではなく、
大胆な場面転換に伴うカタルシスに魅力があると思います。
本作では、大きく場面転換することもありませんので、
全体的にこじんまりとした印象を受けますし、
ボリュームが少ないために描写も不足気味であり、
過去の名作のようなカタルシスはないように思います。

そしてそもそも、この二つのシナリオ、
特に最後のPocketsですが、
主人公の物語ではなく、しろはとうみの物語になっています。
それまでの各ヒロインとの個別とは、
テーマも主人公も変わってしまっていて、
どうにも組み合わせが悪いように感じました。
なんていうか、良質な魚介料理に、
良質なワインを出したようで、それぞれは良いはずなのに、
全体では不味くなっているのです。
主人公のひと夏の思い出を描きたかったのであれば、
TRUEの二つのシナリオは要らなかったです。
この二つのシナリオを入れたことで、焦点がぼやけてしまい、
確実にストーリー全体の完成度は落ちています。

ただ、各個別ヒロインとのシナリオだけだと、
美味いことは美味いけど、どこかで食べたことがあるような、
特徴に欠ける魚介料理で終わってしまいます。
もっと味わった人に、大きなインパクトを与えたいならば、
やっぱりTRUEルートのシナリオは捨てきれません。
まぁ、結局のところは、書き方次第なのでしょうね。
しろはとうみの物語を書きたいのであれば、
この二人のどちらかを最初から主人公に据えて、
その視点で再構成して掘り下げれば、
きっと面白い作品になっていたと思います。
それなのに、18禁を捨てて一般ゲーで出したくせに、
中途半端に男性向け恋愛ゲーの枠に囚われているものだから、
男性主人公が最後は死にキャラみたいになってしまい、
しろはとうみの物語も、描写不足になっているのです。

本作は、外部からライターを読んだわりには、
その外部ライターの色が薄く、その意味においては、
外部ライターのファンには不満が残る作品かもしれません。
しかし、その代わりに鍵作品らしさが出ており、
トータルでは個別のシーンや個々のシナリオは、
良く出来ていたと思います。
しかし、主人公の物語として描き切れなかったところに、
地に足のつかないストーリーの弱さや、
ストーリーの筋の細さが露呈してしまい、
そのような構成になってしまったこと自体、
プロット段階から既に問題があったように思うのです。

昔のゲームとは異なり、
ヒロインの個別ルート必須みたいな風潮に変わり、
シナリオがヒロインに従属する構造になっていきました。
個人的にはそれが不満ではあったのだけれど、
以前の鍵作品は、
そうしたヒロインにシナリオが従属する構造の中にあっても、
それでも、全体としてみるならば、
主人公の物語として、ストーリーに太い幹がしっかりとあり、
だから他所の作品よりも面白く感じられたのです。
本作は過去の鍵作品に比べ、致命的に主人公が弱く、
その根幹部分が揺らいでしまったことが、
個人的には非常に残念でした。

ところで、ゲームというからには、テキストだけではなく、
それ以外のところも大事になってきます。
ちょっとしたミニゲームや収集要素を加える等、
ただ読むだけのノベルゲーに終わらせまいとするあたり、
ここは鍵作品の良さが出ていると思いました。
他方で、全盛期の鍵作品の場合、
最高のサウンドに、業界最高水準の塗りも加わり、
それで全体としても最高の作品になっていました。
本作も、高水準を維持してはいると思うのですが、
昔ほど突出した感じではないのかなと。
私は、基本的に同じことの繰り返しは嫌いますが、
それでも、昔の作品を今の技術で作ったという作品も、
場合によっては名作と判断することもあります。
だから本作のストーリーが過去作ほどでないとしても、
今の最先端の水準で作られていたならば、
トータルでは名作と判断して良いと思っていました。
もちろん本作は、ワイド画面になる等、
10年以上前の泣きゲーとの違いはあります。
しかし、本作より演出の良い作品はいくらでもありますし、
今の先端の技術で作られたとまではいえないのでしょう。

<総合>


総合では良作としておきます。

名作足りうるにはストーリーが弱いということと、
それでも11年ぶりにKeyらしい内容と質の作品が帰ってきたこと、
どちらを重視するかで悩みましたけれどね。
もう少し演出が進化していれば、
現代的泣きゲーの最前線ということで、
評価していたと思うのですが、
上記のとおり、それほどでもありませんでしたので。
まぁ、ここ10年を代表する泣きゲーだと考えれば、
名作扱いでも構わないと思いますので、
後日名作に変更する可能性はあります。
ただ、現時点としては、自分の印象として、
この作品を10年後に覚えているかと考えたとき、
答えはノーになるのかなと。
その点を重視しての、良作ということですね。

以上が私の判断となりますが、
あくまでもこれは、『MOON.』以降、
全作品をプレイしてきた人間の感想になります。
最初に書いたように、鍵作品未経験の人や、
ここ10年の間に鍵作品のファンになった人にとっては、
名作に感じられるくらい感動できる可能性がありますので、
該当する人には、プレイしてみてもらいたいと思いますね。

ランク:B(良作)



DL版


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久しぶりにKeyで楽しめた作品でした。

私が今までプレイしたKeyとその関連作品をざっくり10点満点で評価すると、

(10点)
ONE ~輝く季節へ~
Kanon
AIR
CLANNAD

(9点)
MOON.
智代アフター

(8点)
planetarian
リトルバスターズ!
Summer Pockets

(5点)
Rewrite

やっぱりKeyは好きな作品が多いので、どれも高得点です。Rewriteやオリジナルアニメ作品はダメでしたがw

サマポケはリトバスと同じ8点ですが、評価ではリトバスより少し下って感じです。

リトバスは発売当時、過去の偉大な作品と比較して結構不満もありましたが、なんだかんだでストーリー・キャラ・音楽など結構今でも覚えていますね。

サマポケは10年後に内容を思い出せるかと言われると自信がないです。Key作品の特徴であった音楽の印象がかなり薄くなってしまったのも痛いところです。

不満はあるものの、リトバス以来、11年ぶりにKeyで面白い作品をプレイできたというだけでも、十分に意義のある作品でした。

私の場合、75点以上が名作(普段でいえばA-)となるのですが、そうなるとサマポケは74という感じで、限りなく名作に近いけど、ギリギリでやっぱり良作って感じですね。
リトバスは、当時は不満も多かったですが、一本筋がきちんと通っていることと、主題歌を含めてラストが盛り上がって印象的でした。最後にグッと鳥肌が立つくらいに盛り上がるのが鍵作品の魅力だと思いますが、リトバスには一応それがあったのに対し、今回はそれがなかったように思います。野球の速球に例えると、かつては手元でぐんと伸びてきたキレのある球だったのに、今回は手元で失速して棒球になった感じなんですよね。
まぁでも、しばらく論外な作品ばかり続いていただけに、久しぶりに堪能出来て良かったです。

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