『W-Standard,Wonderland Lv.1』

『W-Standard,Wonderland Lv.1』

『W-Standard,Wonderland Lv.1』は2015年にWIN用として、
Circletempoから発売されました。

これ、作っていて、さぞかし楽しかっただろうな~
とりあえず、『MYTH』ファンはやっておけと。

W-Standard,Wonderland Lv.1 dl

<概要>


ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
3編の異なるストーリーが映し出す、ひとつの真実。
(1)ワンダーランド編。トキアラント国に住む少年トトは、
禁断の地とされる「アアルの塔」にて
とんでもない光景を目にすることになる――
(2)異世界編。学術的調査の目的で田舎町・葦野里を訪れた大学生
「俺」は、考古学の助教授・竹井瑠衣と共に
この地方に眠る謎多き円墳・葦野里古墳の調査を開始する――
(3)神視編。全てが崩壊した未来のある都市。
そこに残された存在は妄想に浸る中年男性・塔人と
一体のガイノイドのみであった…… 。

<ダブルスタンダードワンダーランド>


まず最初に、この作品、タイトルで損をしているのではないかなと。
W-StandardとWonderlandは、共にWで始まってDで終わるので、
タイトル画面ではスッキリはまって良い感じなんですけどね。
知らない人がパッと見て興味を惹かれるものではないし、
日本語よりも印象に残りにくいと思いますし。
素直に「ダブルスタンダードワンダーランド」って書いた方が、
個人的には良かったのかなと思います。
『MYTH』の時も、有名な洋ゲーで同名のゲームがありましたから、
それのことかと思ってたくらいですし、
なんかいつもタイトルが損をしているように思ってしまいます。

それと、Lv.1って書かれてしまうと、どうしても、
途中で終わるのだろ、だったら後でも良いかって思われてしまうでしょう。
先に書いておくと、本作は確かに完結はしないのだけれど、
良い所でブツっと終わって続くではなく、
ある程度スッキリするキリの良いところまで進みますので、
十分な満足感は得られます。
普通のタイトルでも次回に続くって内容の作品もありますし、
本作も「ダブルスタンダードワンダーランド」って名前でも、
あまり問題はなかったんじゃないかなと。
完結しないから「Lv.1」って付けたのでしょうが、
馬鹿正直すぎて損をしているなと思ってしまいます。

<ストーリー>


ストーリーは、あらすじにもありますように、
3つのシナリオが用意されています。
最初はワンダーランド編から始まり、その後に異世界編が続きます。
そしてこれらのシナリオが進行する中で、
合間合間に神視編が挿入されることになります。

従って途中で神視編が混ざることで、
頻繁に視点変更がなされる作品なのです。
神視編では状況が把握しきれないこともあり、
何だか分からない状態で進むことになるわけでして。
一昔前の考察型ノベルでは多用された手法なのだけれど、
個人的にはこういう手法は好きではありません。
こういう手法でばら撒かれた伏線は伏線とは言わないと考えますし、
最初は良い印象を抱けませんでした。
しかし、ワンダーランド編だけだと、
あぁ今回は普通のファンタジーものなのかなって思われかねません。
序盤から神視編を混ぜ込むことによって、
おや、何だか『MYTH』っぽいぞとなるわけですし、
それもあるから上記のように、
『MYTH』が好きな人はやっとけという言葉にもつながるわけでして。
そう考えると、セールス的な観点、
過去作からのサークルのファンを意識したという観点からは、
決して悪い手法とは言えないのでしょうし、
何か納得したような気になれました。

と言うわけで、序盤から神視編で考察型シナリオっぽさを漂わせつつ、
ワンダーランド編ではファンタジー世界を舞台に、
少年少女たちの日常が描かれていきます。
そしてアアルの塔に向かったトトたちは、
そこで別の世界へと飛ばされてしまいます。
その別の世界が異世界編になるわけですね。
異世界編とはなっているけれど、プレイヤーの常識に照らすならば、
むしろこちらが現実世界になるでしょうか。
ファンタジーなんだけど馴染みのあるワンダーランド編と異なり、
異世界編は知っているはずの現実を舞台にしているのだけれど、
考古学が題材になっていることから、あまり馴染みのないものとして、
こちらの方が新鮮な感覚で楽しめるでしょう。
こういうノベルゲーで考古学を扱う作品は少ないですし、
昔は『DE・JA』で考古学の道に進んだなんて人もいましたが、
『DE・JA』とか好きだったベテランユーザーも、
間違いなく本作を気に入ると思います。

ふと思い出したのですが、「リング」とかで有名な鈴木光司さんは、
デビュー作の「楽園」で日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を得ています。
「楽園」では古代のモンゴルから始まり、
そこから舞台を近世の南海の小島へと移します。
書評では2番目の南海の島における描写が絶賛されていて、
そのパートだけで受賞を決定付けたようなものだったそうで。
アニメでは古代の部分が良かったので不思議だったのだけれど、
小説の方を読んだら、あぁ確かにここで受賞決定だわと納得しました。
それと似たような感じで、ワンダーランド編もキャラは個性的で、
テンポ良く進むので面白いのだけれど、
それだけだったらストーリー的には良作止まりの作品でもあったのでしょう。
異世界編になって、後述する演出やシステムが加わったことで、
あぁこれは名作決定だわと印象付けられたのです。

さて、その異世界編なのですが、最初こそ考古学ベースに展開されるものの、
飛ばされてきたトトらと合流した辺りから、
今度はミステリーものといった感じで、
謎を解き明かすことが目的になっていきます。
この辺になると、先が気になって仕方なくなってきますね。
そして凄いのもここからで、一つまた一つと判明する一方で、
それ以上に謎が増えていき、
それどころか次第に「認識」そのものが怪しくなっていきます。
用意された3つのルートが絡まり相乗効果で面白さを増しつつ、
次第につながっていくことで分からなかったことも分かってくる、
だからそれにより十分な満足感も得られるのだけれど、
他方で新たに生まれた謎や解決すべき問題が出てくるわけで、
考察好きな人は特に楽しめるでしょうね。

因みに、もう人気投票が終わっているようですが、
案の定、ポッケとエバンナは強かったですね。
ストーリーの面白さという点では異世界編が上ですが、
魅力的なキャラという点ではワンダーランド編に軍配が上がりますから。
まぁでも、人気投票では順位が伸びなかったけれど、
個人的には瑠衣さんが好きなんですよね。
途中で精神的に崩壊したりもしているけれど、
知的で芯の強い眼鏡美人は基本的に、
エロゲに少ないという希少価値も相まって好きなのですよ。

<ゲームデザイン>


本作は基本的にはノベルゲームになります。
もっとも細部にわたって凝っていて、
例えば「GEAR」と呼ばれるミニエピソードがあり、
これはその場でも後からでも読むことができます。

他にも用語集や人物図鑑などもあり、
複雑なストーリーを把握できるように配慮がなされています。
私は本来は難解と言われる類の作品は好きだったのだけれど、
最近の難解と言われるような作品って、
徒に分かりにくくしただけであり、それでいて何のフォローもないので、
出来の悪いものばかりに見えてきます。
つまりきちんと整理して書けば何も難しくないのに、
単にライターが下手で難しくなっただけだろってケースが多いのですよ。
時系列や人間関係が複雑ならば、
ノベルゲーは小説のように簡単に任意の地点に戻れないのですから、
その代わりとなるフォローがあって然るべきなのです。
それなのに何の配慮もなされず、
難解と言われて悦に浸っているような作品が多いわけで、
だからこそ本作のようにしっかりとフォローがなされている作品は、
それだけで好印象になってくるのです。
また、上記のように本作は考古学など専門的なことも触れますので、
そういう部分の説明も欲しいところ、
かといって全部本文に混ぜられると冗長になり、
芸がないように見えてしまいかねません。
だからこういう用語集の形式で、
知りたい人だけ読むという形式が良いのだと思います。

本作は異世界編の途中で、ダブル主人公になります。
二人の主人公が別々に行動することからマルチサイトの構造になり、
物語を多角的にみていくことになります。
ここでは懐中時計システムにより、サッピング感覚で、
同時間帯における二人の行動を交互にみることもできるし、
流れの把握を優先して一方だけを先に読み進めることもできます。
ここで偉いのは、ユーザーに選ばせていることなんですよね。
プレイヤーに楽しみ方を強要するのではなく、
楽しみ方を選ばせているわけで、
同じ読むだけのノベルであっても全然違ってきますし、
何よりプレイヤーへの配慮の意識が伝わってきますよね。

<演出>


このダブワン、何が一番凄かったのかと言うと、
間違いなく一番は演出なのでしょう。

これ、ナカオボウシさんはどういう気持ちで作っていたのかな。
好きで作っていたのであれば、
これだけ自由自在に作ることができたら、
作っていてさぞかし楽しかったんだろうな~
でも逆に、ユーザーを何とか楽しませたいという一心だけだったなら、
さぞかし神経を擦り減らしながら、
身も心もボロボロになりながら作ったんだろうな~
いずれにしろ、魂の一作というのがあるのならば、
こういう作品のことを言うのでしょう。

本作は、とにかく自由なのです。
普通にテキスト欄にテキストが表示されることもあれば、
画面の立ち絵のそばに心境や独り言が表示されることもあるし、
場合によっては実写背景にテキストが全画面表示の場合もあります。
また声の大きさに応じて、フォントの大きさをいじったりもしています。
方法論としては、どれも既にあるものだけれど、
その場面その場面で一番相応しい方法が採られていて、
きちんと使い分けられているのです。
テキスト欄の枠の使い分けなども含め、
本当に考えて作っているんだなと伝わってきますね。

演出に関しても、例えば戦闘場面では、
わざとファミコンのRPGのコマンド戦闘画面みたいな表示にして、
こちらを楽しませてみたり、
車に乗ったと思ったら背景が高速に動き出して、
まるで本当に車に乗っているかのように驚かされたり。
もちろんカットインなども多用していますし、
平面的でなく立ち絵が奥から移動してくることで、
立体感を表現している場面もあります。

非常に多くの、本当にいろんなパターンがあるものだから、
おぉっと驚くこともあれば、次はどうなるんだろうと楽しみもあります。
もっとも、一つ一つは必ずしも斬新な手法とまでは言えないし、
既にどこかで用いられた手法でもあるのでしょう。
しかしたくさんの方法の中から、
その場面に応じて最も相応しいと思われる方法が選ばれ、
惜しみなく用いられていることから、
凄く演出が良いと感じられるのでしょうね。
まぁそう考えていくと、
これもある意味ゲームデザインの範疇なのかもしれません。
ノベルゲーをデザインする、即ち読んでいる人を楽しませるために、
その場面その場面で何が最も効果的なのかを常に考えているわけでして。
本作は考察型のシナリオゲーですし、
何もない画面にテキストがあるだけでも、
評価する人は評価する作品なのでしょう。
しかしそういうユーザーに甘えることなく、
全てのユーザーが楽しめるように最大限に配慮する姿勢、
その心意気にはただただ感服するばかりです。

商業のエロゲでも演出の良いとされる作品はありますが、
ワンパターンだったり、
動きは豊富でもアニメの出来損ないのようなものも多いです。
でもね、アニメや映画とゲームは違うのであり、
ゲームならではの演出方法もあるのですよ。
その点を存分に示した本作は、
演出において商業エロゲをも超えてしまったと言えるのでしょう。

<感想・総合>


ストーリーそのものは完結していないものの、
それでもシナリオと演出に関しては文句なしの作品でした。
音声はないけれど、ファタモルガーナとかと一緒で、
他に補う部分があれば関係ないです。
ミドルプライスから下手なフルプライス並のボリュームもあるので、
価格を考えればコスパも非常に良好ですしね。
評価的には、単純な点としては本作より上の作品もあるけれど、
未完の作品としては本作が最高のものとなるでしょう。

因みに、最終的には本シリーズが、
『MYTH』のストーリーを上回る可能性があるにしても、
『MYTH』は一作で完結していますので、
現状としては未完の本作よりも『MYTH』の方に、
ストーリーに関しては軍配が上がるのでしょう。
もっとも『MYTH』も当時では同人の中では演出に秀でていましたが、
本作では商業を凌駕するほどに進化していますからね。
そういうグラフィックや演出の大きなプラスも加味されて、
総合では本作の方が数点上になっていますし、
主観的にもこっちの方が好きですね。
まぁこの辺は好みもありますので、
『MYTH』の世界観・ストーリーに魅了された人ほど、
やっぱ『MYTH』だよなとなる気持ちも分かります。
今作はシナリオと演出の二本立てでの評価なので、
ちょっとポイントが異なりますからね。

それにしても、実際のところ、この価格でこれだけやられたら、
商業ノベルゲーって何の意味があるのって思うくらいです。
徹底した作り込みが最大の魅力な作品だけに、
焦らせて質を損なわせるようなことはしたくないけれど、
できれば早く続編がプレイしたいものですね。

ランク:AA-(名作)

DL版
W-Standard,Wonderland Lv.1 dl

全年齢パッケージ版
W-Standard,Wonderland Lv.1(全年齢版)
W-Standard,Wonderland Lv.1(全年齢版)


関連するタグ WIN /ADV /ノベル系 /


月影のシミュラクル   緋のない所に烟は立たない  いつまでも僕だけのママのままでいて
カテゴリ「2015」内の前後の記事





管理者にだけ表示を許可する

Circletempoがまたすごい作品を作ってくれました。MYTHのような作品がまたやりたいと思っている人なら是非やるべきでしょう。

MYTH以降のサークル作品は、どちらかと言うとMYTHに比べて小規模なものが続いていたので、私の情報収集のアンテナが弱っており、本作発売時はまだ注目してなかったです。調べてみれば、このシリーズがサークル最後の作品となる予定で、スタッフも全力を注いだ内容になっているようなので、これはやらねばと思い早速購入しプレイしました。

序盤からMYTHを思わせるような流れで進んでいき、中盤から一気に爆発して、それからはもう続きが気になってしょうがなかったですね。複数の世界が絡まっていく構造のストーリーは見事で、ナカオボウシさんの手腕は健在でした。

ストーリーに限らず、その他の要素についても、こちらのプレイ前の期待値を遥かに上回るものでした。

演出について、まさにkatanさんがおっしゃるように、自由で、型にはまらないという言い方がふさわしいですね。プレイ中様々な演出のパターンには驚かされるばかりでした。本作をやってしまうと、ほとんどの商業ゲームの演出が窮屈なものに感じてしまうほどで、ここはMYTHの頃から格段に進化したポイントでした。

システムについても、GEARS、用語集、人物図鑑、懐中時計、思考整理フェーズなど、どれもゲーム内容に則したものであり、プレイヤーへの配慮が大いに感じられました。ノベルゲームだからといって、ただテキストが読めればいいなんてことはなく、こうしたゲームらしさを加えることが出来ている作品は好印象ですね。

本作がパッケージ版・ダウンロード版含めてトータルでどれほど売れたのかはわからないですが(私はパッケージ版を購入しました)、ダウンロードサイトの販売数を見た感じ、面白さに反してあまりにも少ないと感じてしまいます。こうした考察型の作品は潜在的に好きな人は多いと思いますが、いかんせんマイナーなのが残念ですね。

MYTHの英語翻訳が進んでいるようなので、このサークルの作品が、海外のゲーマーからも評価されることを強く望みます。面白いノベルゲームを求めている人なら、是非やるべき作品だと思いますね。ゲームデザイン、演出、ストーリーなど、この作品は多くの要求に応えてくれます。

自分もそうなんですよね。
しかも本作は完結しないということで、MYTHより面白く感じる可能性は低いのかなと思い、最初はあまり注目しておらず様子見でした。

だからそれ程高く期待していたわけでもないというのもありますが、本作のようにほぼ全ての項目で期待以上の作品は珍しいですね。こういう作品に出合うと、ゲームってやめられないなと思います。

この記事の下書きを書いたのは、年間ベストの記事よりも結構前だったりします。
だからこの記事の中では演出という方向で表現したし、実際に演出の良い作品となるのでしょうが、演出やシステム周りも全部ひっくるめて、ゲームデザインが優れていると言えるのだと、今は思っています。
エロゲをやめていく人も多い中で何だかんだで自分はいまだに続けているし、それは本質的には好きだからとなるのだろうけれど、その一方で苦言を呈することも多々あるわけで。その、私が普段言っていることの多くを本作は実現しているのであり、本作をプレイすれば私の言おうとしていることも分かるように思います。だから百聞は一見に如かずということで、多くの人にプレイしてもらいたいですね。
ノベルゲーはアニメでも小説でもない、ノベルゲーをデザインするということについて、知らない人には気付いて欲しいと思いますから。

自分は、最初あまり期待していなかったこともあって、お手軽にDL版を購入しました。DL版は、購入者が多くはないようだけれど、自分もその中の一人となるのでしょう。この内容であれば、パッケージ版でも欲しいなとか思います。パッケージ版がどれだけ売れたのか知りませんが、出来のわりに広まっていないのは確かなのでしょうね。個人的には、2015年でこの作品をプレイしないでどうするのだとすら思いますけどね。


> MYTHの英語翻訳が進んでいるようなので、このサークルの作品が、海外のゲーマーからも評価されることを強く望みます。面白いノベルゲームを求めている人なら、是非やるべき作品だと思いますね。ゲームデザイン、演出、ストーリーなど、この作品は多くの要求に応えてくれます。

ここはまぁ、ブログやっている人だけの情報と言いますか、ここだけの話、私のブログは結構海外から見に来る人もいるようでして。グーグル検索で国内優先にしているので、海外からだとヒットしにくいはずなんですけどね。
とりあえず様子を見ていると、海外のオタ層は、どこから情報を仕入れてくるのか、思いのほか発売前の今からMYTHに注目しているようでして。従って翻訳される日が待ち遠しいのが現状だと思います。一部の海外のユーザーとは、正直自分は距離を取りたいとか、いろいろ思うところはあるのだけれど、MYTHの好きな人や私と同じ価値観の人だけでなく、より多くの人に本作をプレイしてもらいたいですね。

トラックバック http://advgamer.blog.fc2.com/tb.php/2943-f89fb617
| ホームへ戻る |