『滅び朽ちる世界に追憶の花束を』

『滅び朽ちる世界に追憶の花束を』

『滅び朽ちる世界に追憶の花束を』は2010年にWIN用として、
郷愁花屋から発売されました。

ストーリーとボリュームに秀でた作品でしたね。

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<概要>


ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

選択肢のない一本道の作品ではありますが、プロローグが終わった後は、
プレイヤーが8つのシナリオの中から任意に選んで読むことができます。
また各シナリオには「rememberance mode」というのがあり、
そのシナリオ内での特定の場面につき、別のキャラの視点で描かれています。
これにより物語が多角的に表現され、更に深みを増すことになります。

あらすじ・・・全てを捨てる、覚悟を決めた。
地位も名誉も財産も・・・・・・そして、大切な家族も。
全てを置き去りにして、この時代から去ることを決めた。

滅び朽ちる世界に追憶の花束を贈りましょう。
これは、いろいろな形に栄えたそれぞれの時代と、そこで生きる人々のお話。
そして自らの望みを叶えるために時空を超える旅に出た、愚かな男の物語。

長い歴史の流れから見ればほんの一瞬の生でしかない彼女たちは、
それぞれの時代を果たしてどのように生きたのでしょう。
それぞれの時代に何を思い、何を成そうとしたのでしょう。
花のように、人はたった一度きりの美しい花を、
それぞれの生の中で咲かせるのだと思うのです。
今回はそんな、生命力に満ちた物語をお話しましょう。

<感想>


上記のように本作には8つのシナリオがあります。
登場人物も世界観もジャンルも全部異なるため、
オムニバス形式の作品とも言えますね。

本当は8つのシナリオごとに紹介した方が良いのだろうけれど、
個人的に読書感想文のようなことは書きたくないのと、
OHPに各シナリオのあらすじが詳しく書いてありますので、
興味のある方はOHPでご確認下さい。
体験版もあるので、そこで雰囲気も掴めますし。

まぁ、各シナリオは扱う題材や時代などは異なるものの、
大雑把には近未来を舞台にしたSF風のファンタジーとなります。
雰囲気の異なる8本の世界観を堪能しつつも、
それぞれのテーマを通じて人間に関する普遍的なものを掘り下げており、
この辺の構成は見事でしたね。

また8つのシナリオは主人公や登場人物が異なり、
一見すると全く別物のようでもあるのですが、
キャラとかにつながりがあったりしますので、
そうした関係性に気付きだすと作品への想いに深みが増しますし、
シナリオ間に横のつながりも生まれてくることで、
より一層ストーリーを楽しめるようになるのでしょう。
この辺は、考察とか好きな人向けと言えるでしょうね。

それと、シナリオ数が増えボリュームが増えてくると、
どうしてもプレイヤーの印象も散漫になりがちなのですが、
そこで各シナリオを花に例えたことでイメージを集約させた辺り、
非常にセンスの良さをうかがわせます。

まぁ8つも雰囲気の異なる物語があると、中には自分に凄く合う物もあれば、
逆にあまり合わない物も出てくるでしょう。
全てが等しく同じ印象ということには、絶対ならないでしょうし。
メッセージ性が強い物は、合えば大きなプラスにもなりうる一方で、
共感できないと醒めるおそれがありますしね。
従って凄く楽しめたり、或いは少しもの足りなく感じたりと、
多少の浮き沈みは人によっていろいろあるだろうなとは思うし、
そこが本作の強みでもあり弱みでもあるのですが、
ストーリーに関しては総じて良かったと思います。

本作は低価格の同人作品なのですが、
平均的なフルプライスのADVよりもボリュームが多いです。
今の私は必ずしもボリュームの多さを求めないので、
描きたいものに必要なだけの量があれば少ないボリュームでも評価します。
しかし、一昔前はストーリーの良い作品を求めると言いつつも、
同時にボリュームの多い作品を求めていたものです。
でもそれって、私に限った話ではなく、
ノベルゲーユーザーの多くに当てはまっていたと思うんですよね。
だからそれに応じて、ノベルゲーの大半を占めるアダルトゲームでは、
テキスト量がどんどん増えていったのでしょうし。
そうした価値観、つまりストーリー性が優れていながら、
同時にボリュームも非常に多いのがストーリーの良さの条件とするならば、
2010年代以降のノベルゲーにおいて、
本作は最高クラスに位置する作品なのでしょう。
ここまでのシナリオとボリュームを両立させた作品は、まずないですから。

もちろん、近年多い水増しテキストではありません。
シナリオ数自体が多いので、これが必要な量だったと言えますし。
だから途中でだれることなく楽しめます。
またシナリオゲーではメッセージ性の高い作品が好まれやすいですが、
本作はメッセージ性も強いですからね。
ストーリー・シナリオの良さとボリュームを最重視する人であるならば、
本作は最高の作品とも感じられる可能性がありますし、
ストーリー・シナリオ重視ですなんて言っている未経験の人がいるならば、
四の五の言わずに、とっととやれと言いたくなります。
もしストーリー・シナリオ重視で遊ぶと言うのなら、何で本作をやらないのって。
そういうわけですので、本作はハマる人はハマる作品なんだろうなと。
実際、それだけの魅力を有した作品ではありますから。

ただ、ここからは好みの問題でしかないので個人的な感想となりますが、
一つのストーリーで長大なのとは異なり本作はオムニバス的なので、
異なるシナリオに入ると、またリセットされてゼロからとなります。
何度もリセットされることで飽きずに済む利点もあるものの、
その一方で一つの長編ものよりはハマりにくかったです。
ここは構造的に、どうしても一長一短出てしまいますね。
バラバラのようでいて、実は一人の物語だったとかなら、
複数の物語全てに意味を感じられるのですが、
そうでないと少し弱く感じてしまうものですから。

まぁお前の好みなんか知るかと言われればそれまでなので、
もう少しゲーム的な構成から語りますと、
っていうか、実のところ私が一番引っかかった点でもあるのですけどね。
本作はテーマとか作者の伝えたいことが強く、
それが良い意味では統一感を生んでいるのだけれど、
逆に物語の幅を狭めているのも確かでして。
オムニバスゲーは昔は多かったですが、
中には何でこれらを一緒にして売る気になったのかと思うような、
ゲームシステムも物語ジャンルもまるで異なる物を混ぜた、
そんな変な作品もあったわけでして。
それらと比べると、次は一体何が出てくるのかというワクワク感は、
本作は弱くなってしまいます。
だから本作は優秀なオムニバス風ストーリー系作品であっても、
必ずしも優秀なオムニバス作品ではないのでしょう。
両者は似て否なる物なのです。
本作は8つのシナリオのどれから読んでも構わないわけで、
好きな順に自由に読めるというのはゲーム的で良いのだけれど、
それが逆にオムニバス臭を強めてしまい、
そしてオムニバスの意識が強まってしまうと、
そっち方面としてはどうなんだろうという問題が出てしまうわけでして。

いやいや、方向性の欠片もないような有象無象を集めただけの塵みたいな作品と、
しっかりした方向性でラストもきちんと収束する本作を一緒にすんなと、
それも確かにあるんですよね。
もちろん、全体のストーリー性だけなら圧倒的に本作の方が良いです。
なにせ本作は寄せ集めのオムニバスではなく、
オムニバスの皮を被ったストーリーものなのですから。
でも、それだったらオムニバス臭を前面に強調するのではなく、
プレイヤーが自由に選びつつも、物語上は語り部が間をつなぐとか、
何かしらの方法でもう少しオブラートで包んで欲しかったなと。
プレイする人には私みたいなのもいるわけですから、
違うんだよ~これはオムニバスとして楽しむ物ではないのだよ~と、
誘導する何かが欲しかったのですよ。
ポンとプレイヤーを放り出すのではなく、ナビゲーターがいただけでも、
大分印象が変わってくると思うのですけどね。
ゲームらしさを発揮しうる唯一の場所だけに、
だからこそ、ここには細心の注意が欲しかったかなと。
凄く些細なことかもしれないけれど、
それが出来ていれば確実に評価が跳ね上がっていましたし、
ちょっと強調するポイントがずれたのかなと思ってしまいました。

本作の各シナリオは花に例えられるのですが、
全ての花を集めた最後の花束は誰が見ても同じになるのでしょう。
でも2つ、3つと選んだ段階では人によって組み合わせも異なるし、
景色も印象も異なってきます。
だからこそそこで、「あら、その組み合わせは~」って一言添えられるだけで、
全然違ってきたと思うのですよ。

ところで、私はストーリーの良い作品は求めるものの、
それだけで判断するとか、最重要項目に置いているってわけでもないので、
それで若干の不満も生じた感じでして。

そこで他の部分なのですが、まずグラフィックですね。
グラフィックでは、キャラが淡いセピア調などで描かれており、
そこが良くも悪くも特徴なのでしょう。
全てフルカラーの方が良いと感じる人もいるでしょうから、
当然賛否分かれうると思います。
個人的には本作の雰囲気には合っているので、この点は気にならなかったです。
キャラの表情も富んでいますし、一枚絵を用いた場面での見せ方も良いです。
キャラの変化も良い、一枚絵の質も良いとなると、
通常はグラフィックは良かったとなるのだけれど、問題は量と使い方なのかな。
価格から考えればCGの量に不足はないのだけれど、
一枚絵の数自体はプレイ時間に比すれば少ないです。
それだけに通常時の表示が大事になってくるのですが、
本作では一般的な立ち絵が存在せず、
テキスト欄の横にキャラの顔が表示されるだけなんですね。
そうなるとプレイ時間の大半は、画面全体の下四分の一だけで進行するわけで、
私はその窮屈さが非常に気になってしまいました。
どれだけストーリーが良くとも、
これではストーリーの良い小説を読んでいるのと同じであり、
そう感じてしまう時点で、かなり醒めてしまうのです。
最近は、どうも画面全体の使い方というのに過敏になっているので、
気にならない人は気にならないのでしょうけどね。

それでも普通に小説を読むのと遜色がなければ問題ないのですが、
本作はシステム周りが貧弱でして。
同時期の他の同人ソフトと比べても、物足りないのではないでしょうか。
特にバックログは文字が重なってしまうので、
多用する人はストレスが溜まりそうだよなと思いながらプレイしていました。
私は使用しないのでそこは支障はなかったものの、
少しモッサリしたところは気になりました。

もっとも、その一方で、
本作はUIのデザインとかは凝っている上に作品にマッチしていて、
非常に秀逸なんですね。
物語に合わせてそれぞれ花を用意していたり、
凄くセンスの良さが伝わってきます。
だからこの辺も、何を重視するかで印象が分れると思います。
私はボリュームの少ない作品だと、多少操作性が劣っていても、
デザインの優れた方が好みなんですけどね。
デザインの良さは次第に慣れて良さを感じなくなる一方で、
読むのにストレスが溜まる仕様だと、そのストレスは増していくだけですから。
数十時間も読むようなボリュームの多い作品ですと、
そしてボリュームが多くなるほど、シンプルでも操作性の良い方が好きです。
本作は非常にボリュームの多い作品だけに、
シンプルでも構わないから快適な方が良かったなと思ってしまいます。

尚、本作には音声がありませんので、
音声必須と考える人には向いていないのでしょう。
もっとも、本作は非常にサウンドへの評価も高い作品です。
私はサウンドが優れていれば音声はなくても構わないと考えるタイプなので、
本作で音声がないことには何ら不満はありませんでしたし、
どうしても音声がないと駄目って人以外は問題なく楽しめると思います。

<総合>


例えるなら、凄く内容の良い小説を電子書籍として、
デザインは優れているけど画面が小さく、
処理速度の遅いタブレット端末で読んだような感じといったところでしょうか。
ストーリーだけなら確実に名作級だし、
傑作扱いの作品と比べても何ら遜色はないのだけれど、
気になる点やストレスがたまったこともあり、
それで点数は伸び悩んだ結果となりました。

こういう作品こそ、プログラム・システム周りに自信のある大手が組めば、
凄く大化けしそうなんだけどな~
大昔の名作を今更ほじくり返すより、
こういう近年の在野の有力株をバックアップした方が、
よっぽど有意義だと思うのですけどね・・・

もっとも、あくまでも私の基準からは点が伸びにくいというだけでもあります。
特に私の場合、全体の構成から考えると凄いのだろうなと思いつつも、
個々のシナリオには強烈に惹かれたというわけでもないですから。
総合でも、名作と良作の間で現在進行形でまだ悩んでいます。
ストーリーとボリュームの両立の点で年間最高だろということで、
ギリギリ名作扱いになっていますが、他に良いのが出てきたら変えるかもですし。

ストーリーだけを偏重しない私ですら、そう感じた作品ですからね。
私が気になった点も、人によっては全く気にならないでしょうし。
まぁ絵や音声やシステム周りの関係もあって結構偏った作品ですので、
多くの人がプレイすれば賛否分かれうる類の、
万人受けするとは言えない作品ではあるのでしょうけどね。
だから人によってはとなるのだろうけれど、それでもその人にとっては、
即ちボリュームを伴ったストーリー・シナリオ重視で、
そしてその傾向が強い人ほど更に楽しめることは間違いないでしょう。
今は入手方法が自家通販のみと入手方法が特殊なのですが、
自分は該当するなと思った未経験者にはぜひプレイしてもらいたいですね。

ランク:A-(名作)

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カテゴリ「2010」内の前後の記事





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もっと短い記事かと思ってましたが、結構な長文で読み応え有りました。

katanさんの指摘しているように、ストーリーに関しては良いのですが、
それ以外の点が細かい面で弱い作品ではあったかと思います。
ストーリーに関して、私も8つの話のうち、全てが面白かったわけではなく、
すごい気に入った話もあれば、そうでない話もいくつか有りましたが…

言われてみれば、動作は少し重かったですね。
UIのデザインにこだわった弊害というか、
長時間プレイするゲームでは気になってきますね。
画面内の動きの乏しさなど、「ゲーム」としてみると、
あらためて反省点も多い作品だと記事を読んで感じましたね。


私の場合、900円という価格の安さにも関わらず、
多くのフルプライス作品以上のボリュームが有りましたし、
ストーリーも2010年発売作品の中で一番楽しめました。
そのため、個人的に近年でも特に印象に残ってる作品です。

> もっと短い記事かと思ってましたが、結構な長文で読み応え有りました。

最初は短かったのですが、直前で大幅に増えました。
この作品自体はずっと前から知っていたので、
他所の感想とかも目にはしていました。
褒める部分に関しては大体同じ感想かなと思ったので、
簡潔に言えば誰かの感想に対し右に同じで終わってしまうわけでして。

ただ、この作品をやって、たぶん誰しもが凄いなと感じると思うけれど、
でも皆が満点を付けているかというと、そうでもないわけで。
じゃあ減点要素が何かとなると、それを書いている感想って、
ほとんど見かけないように思います。だから何でこの人は満点じゃないのかと、
他人の感想からは全く見えてこなかったわけでして。
私自身、未プレイの段階では本作の足りない部分が何なのか、
他人の感想からは全く分らなくて、それがどうにも引っかかっていまして。
私は無精なので、皆が書いているような部分は他所に任せてしまいがちです。
本作の良いところは皆書いているし自分も同意見なのだから、
そこはあまり書かずに、じゃあ自分がどこを足りないと思ったのか、
その点につき思ったところを省略せずに書いてみました。

本作は一般ゲーなので傑作選のアダルトゲームのリストには載ってないですが、
載せるとすれば2010年の3番目くらいに来る作品なんですよね。
そのくらいには自分も良いとは思っているものの、
普段書かないような細かい点まで記載したので、
ちょっと不満点の多い記事になってしまいました。
もっとも本作に限らず他のゲームでも、他所が絶賛ばかりという様な作品の場合、
私は名作と言いつつ少し辛口に書いてしまう傾向がありまして、
古い記事なんかだと特にそういうのが多いのですが、
今回はその悪癖が久しぶりに出て感じですね。
読んでいて面白くなかったかもしれませんが、
自分が何を考えてプレイしていたのかを正直に書いたということで、
ご理解頂ければなと思います。
まぁ逆説的に、これだけ書いても名作扱いしているのだから、
それだけストーリーが別格に良かったのだと、
他の読んでいる人もそこを汲み取ってくれれば良いのですが・・・

> 「ゲーム」としてみると、あらためて反省点も多い作品だと

全てにおいて完璧というわけではなく、同人らしい歪な作品ではあるのでしょう。
あとは、何を重視するかという個々人の基準次第なのだと思います。
私は私なりの基準でいつも書いているつもりなのだけれど、
その場合にはギリギリ名作かなって感じでした。
でも、価格に対するボリュームとストーリーの良さを第一に考えるのなら、
それこそここ5年で本作以上の作品なんてほとんどないでしょうね。
だから傑作と考える人がいても、その気持ちは分るなって思った作品でした。

まぁ今は小説も高くなりましたからね。
文庫本でも1000円超えてしまうような時代になってしまったので、
それを考えると本作は破格のお買い得さなんですよね。
だからシナリオ重視って言っている人は、皆やれば良いのにと思うのだけれど、
一般作の注目度って世間的にも低いし、私の記事でも読まれないわけでして。
感想もストーリーの話ばかり、評価もストーリーだけで決めていそうな人って、
結構見かけるのですけどね。そういう人らが何でこういう作品をしないのか、
自分には理解しかねるわけでして。シナリオシナリオ言いつつも、
結局はエロと萌えキャラが前提の上でのシナリオ重視であって、
本当に良いストーリーの作品が読みたくてゲームをやっている人は、
実際にはかなり少ないんだろうなと思ってしまいますね。

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