『ラッキードッグ1』

『ラッキードッグ1』

『ラッキードッグ1』は2009年にWIN用として、
Tennenoujiから発売されました。

BLゲーですが評判が良かったのと、菅沼恭司さんの作品ということで、
気になった作品でした。

luckydog01.jpg

<概要>


ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・物語は、その名を轟かせていたマフィアグループの幹部4人が、
芋づる式に逮捕されるという、前代未聞のスキャンダルから幕が開ける。
主人公はというと、刑務所の中。
同じグループに属するマフィアの一味、訳あって刑務所暮らしをしているが、
一構成員でしかない主人公は、幹部が捕まっても、
特に興味もなくのんびりと過ごしていた。
そんな時に、突如、チャンスは落ちてきた。
一構成員である主人公が、マフィアのボスになれるという、人生最大のチャンス。
そのチャンスを活かすか、逃がすか。
それは『LUCKY DOG』と呼ばれる主人公の運次第。

<感想>


菅沼恭司さんのゼロ年代以降の代表作には、
『奴隷市場』や『セイレムの魔女たち』がありまして。
いつも丁寧に調べて設定作りがしっかりしている上に、
最近では珍しいタイプの題材を扱っていますからね。
それだけでも毎回新作が気になってしまいます。
もっとも、若い男性プレイヤーに媚びた萌えや、
厨二的な分かりやすい派手さがないので、
痛い信者を生むタイプのライターではないのですが、
地味に好きだったというファンも結構いたと思うんですよね。
まぁ作品の方向性が流行とずれるので、
毎回自分の作りたい物を作れるとまではいかないのか、
一時期は『ママさんバレー』とかも作っていましたが。
そのライターが今度は同人で18禁のBLゲーを作り、
それがこの『ラッキードッグ1』だったのです。
新作が気になるとはいえ、何だかんだでこれまでに名作とした作品もなく、
ライターの熱狂的ファンというわけでもなかったですからね。
加えて今回はBLゲーだしなと、最初は様子見だったものの、
評判が良かったことから個人的にも注目し直したというわけですね。

さて、本作の舞台は禁酒法時代のアメリカであり、
主人公はイタリア系マフィア「CR:5」に所属し、プレイ開始時は獄中にいます。
舞台や時代が珍しいという点では、ライターらしい作品と言えるでしょう。
まぁ今回は時代背景的な部分はそれ程重要でないと思えますが、
その代わりに設定やしがらみに縛られることもなく、
自由にキャラを動かせた感じでもあり、それが功を奏したのか、
従来の作品よりもキャラが活き活きとしており、
会話やテキストも格段に良くなったように感じました。

過去作との違いという面では、まず何よりBLゲーであることが挙げられます。
たぶん、それで手を出しきれない人もいるでしょうし。
ただ、実際にプレイした感じだと、あまり気にする必要はないのかなと。
元々男性向けの作品を作っていた人ですし、
男性向け作品でも男同士の友情や会話が優れた作品ってありますよね。
本作の主人公はノーマルであり、男が好きというキャラではないですし、
本作もBLありきで男同士の恋愛が描きたくて作られたというよりは、
男同士の熱い友情や関係性を掘り下げて特化させていったら、
無駄な女性キャラが排除され、
その結果としてBLになったみたいな感じなんですよね。
これはこれで、一つの特化作品の究極の形なのでしょう。

もちろん男性向け作品のプレイヤーの中にも、
野郎はいらねって人もいるでしょう。
百合ゲーしかプレイしないとか、主人公の友人なんて不要と考える人とか。
そういう人だと本作は合わないことも考えられるのだけれど、
主人公と親友の会話とか男同士の友情を読むのも好きな人であれば、
その点を特化し突き詰めたのが本作だと言えますので、
まず本作も楽しめるのではないかなと思います。
Hシーンもありえるよなって感じで自然な入り方でしたので、
BLが好きでもないような私でも違和感はなかったですからね。
もちろん、BL好きな人なら問題なく楽しめます。

まぁ、本作はストーリー重視の作品ですので、
作品に対する印象はストーリーへの印象で決まってくるのでしょう。
そのストーリーなのですが、大きく3つのパートで構成されます。
一つ目は開始時の獄中であり、捕まった幹部全員を無事に脱獄させられれば、
次期のボスに就任できるということで、刑務所から脱獄するのが目的になります。
二つ目は、脱獄してから本拠地に戻るまでの逃走シーンですね。
そして三つ目は、何とか無事に本拠地に戻ってはみたものの、
幹部らの大半が捕まっている間に縄張りが荒らされているわけでして。
各幹部らは今度は縄張りを取り戻すための闘いに転じることになり、
ここからは個別パートになります。
つまり、主人公は幹部の誰かのルートに入り、
その幹部ごとに用意された闘いの物語を読むことになるわけですね。

この簡単なあらすじだけでも分ると思うのですが、
主人公には常に目的・やるべきことがあります。
まぁ厳密には、個別パートでは各幹部らに目的があるので、
主人公自身に強い目的があるってわけではないのですけどね。
でもいずれにしても、読んでいる方としては、今何をすべきなのか、
これから何を目指しているのかがハッキリとしているのです。
これが、個人的には非常に大きかったですね。

PC88時代ないしPC98時代までのアダルトゲームのADVの場合、
まず最初に事件や物語の端緒となるインパクトのあるシーンから始まります。
そのため主人公の行動の目的や方向性がハッキリしていましたので、
読んでいるこちらも物語に入っていきやすかったんですよね。
だから私も、その頃の作品が好きだったのです。
しかしWIN以降の作品は、何よりもまず恋愛ありきになりました。
もちろん、それはそれでミステリーの合間のラブロマンスも萌えるので、
恋愛ありきの内容を否定するわけではなく、それ自体は構いません。
問題なのは恋愛SLGからADVへと少しずつ移行していったという事情、
それに伴うゲームの構造を今もずるずると引きずっていることなのです。
つまり序盤に意味の感じられない日常シーンが続くことであるとか、
目的の感じられない会話が何時間も続き、何時間も経ってから、
或いは下手したら個別ルートに入ってようやく物語が動き出すという構造ですね。
そういうのも初心者であった頃なら気にもならないのでしょうが、
何年も何十本以上もプレイしていると、
その序盤の時間が無駄で苦痛にしか思えなくなるわけでして。
それでも、その序盤にあたる共通ルートを短くして、
個別ルートを長くしようという傾向も一時期はあったのですが、
何かゼロ年代後半になると共通ルートを長くする傾向が強まり、
最近なんか10時間近く続く物なんかもありますよね。
それが無駄に感じ楽しめなくなっているだけに、
目的意識のハッキリした本作は終始楽しめたのでしょう。
もちろん、本作にだって何気ない会話はありますよ。
でも例えば最初の獄中の場合なんかだと、脱獄に必要な情報収集活動があり、
その過程で協力予定者がどれだけ信用できるのか、
密な関係を築けるのかという点で会話の必要性が生まれているのであり、
一見無駄にも見える話にも駆け引きが含まれていたり、
単にキャラの個性を生み出すだけでなく、
何かしらの意味が感じられるということなのです。

かように方向性がハッキリしている中で、
ライターの持ち味である地に足のついたシナリオが展開され、
その一方であまり設定に縛られ過ぎずに自由にキャラを動かせたことで、
非常に読んでいて楽しかったわけですね。
一人一人のキャラに関しては、他所で熱く語っている人が多いので、
私はあえて書くこともしませんが、
性格も考え方も異なるアクの強い幹部らは皆個性が際立っていて、
どのキャラも良かったと思います。

また本作はマフィア間の闘争が絡んでいますので、
脱獄に逃亡に闘争とバトルや燃えるシーンが連続しており、
燃えゲーとも言えるのでしょう。
燃えゲーは昔は好きな物もあったのだけれど、
ゼロ年代以降の男性向けの場合、どうにも厨二っぽい物ばかりになり、
それで今では一番苦手なジャンルになっています。
本作には、そんな厨二っぽさはありませんし、
キャラも心身共に大人な人が多いので、そのおかげで楽しめた感じですね。

そして何より、スピード感でしょうね。
うん、たぶんこれだ。
ここまでいろいろ理由付けしてきたけれど、
目的のハッキリした作品も、大人の出る作品も、燃える作品も、
設定のしっかりした作品も他所にだってあるのです。
本作を本作たらしめ、無二の物として惹きつけているのは、
上述した点ではないのでしょう。
じゃあ、多くの作品の中で何故あえて本作が良いのかというと、
常に前を向いて突き進んでいくスピード感なのだと思います。
脱獄にはタイムリミットがあるし、逃走中は追いかけられるし、闘いは先手必勝。
限られた時間の中で目一杯に駆け抜けていく若者たちの姿が非常に印象的で、
それが本作の一番の魅力だったのかなと思います。

上に象徴的かなと思えるCGの中の一枚を掲載しましたが、
これを見て何か惹かれるものがある未プレイ者は、
まず間違いなく楽しめると思います。

<総合>


ストーリー・キャラは大満足でした。
終盤で衝撃的なシーンがあるという類の作品ではないですが、
最初から最後まで終始安定して楽しめた作品でしたね。
グラフィックも一枚絵は見惚れるようで、見応えがありました。

以上のように、長所だけなら傑作級の内容だと思うし、
世間での評判の良さも十分に納得できます。
ただ、例えばCGも用意された物は凄く良いのですが、
若干欲しいところになかったりもして、それが少し不満でもありました。
他にも動きが少しモッサリしていますし、
その辺が傑作足りえなかった理由でしょうね。
まぁ同人にしては高い方の価格とはいえ、ミドルプライスの作品ですからね。
CGも枚数としては65枚ありますし、価格を考えれば十分なのでしょう。
だから決してマイナス要素ではないのですが、
なまじ名場面が多いゆえに、もっともっと欲しいと望んでしまうのです。

まぁ若干の不満もありましたが、十分に名作と言えるでしょう。
同時にライター陣の代表作とも言えるでしょうし。
最後に、繰り返しになりますが、
本作は女性ユーザーが楽しめるのはもちろんのこと、
男性でも男同士の熱い物語が好きな人なら、かなり楽しめると思いますので、
その点を重視する人には特にオススメですね。

ランク:A(名作)

ラッキードッグ1

DVDソフトラッキードッグ 1

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この作品は先日クリアしましたが、最後までだれずに面白かったです。
メインキャラは全員魅力的でしたし、作品全体に流れる疾走感が最高でした。
中だるみの有る作品が多い中、最後までだれずに楽しめる作品というだけでも貴重ですね。
由良さん原画のグラフィックはどれもキレイで満足でした。

結局タイトルの「1」の意味がよくわからなかったですが…


最近、私もkatanさんの影響でBL・乙女ゲーを立て続けにプレイして、ハマっていってます。
「薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク」「神学校」「越えざるは紅い花」など、
どれも男性向け作品では味わえない面白さがあり、
また、最近の男性向け作品が失っていった要素を持っている作品も多いですね。

それと、リクエストした最後の作品の感想も掲載してくれるようで、ありがとうございます。
そちらのレビューも楽しみにしています。

> この作品は先日クリアしましたが、最後までだれずに面白かったです。
> メインキャラは全員魅力的でしたし、作品全体に流れる疾走感が最高でした。
> 中だるみの有る作品が多い中、最後までだれずに楽しめる作品というだけでも貴重ですね。

そうなんですよね。全然だれることなく楽しめました。
近年は途中でだれたり眠くなる作品が増えて、ゲームのせいではなく、歳のせいなのかなとか思ったりもするけれど、やっぱり作品次第でいくらでも楽しめるわけで。
本作とかをプレイすることで再確認できてる感じです。

> 由良さん原画のグラフィックはどれもキレイで満足でした。

由良さんの絵は、ますます良くなっている印象ですね。
塗り次第で魅力が失われる原画も多いのに、塗りの雰囲気に合わせて異なる魅力を生み出している点も凄いです。
今は乙女ゲーの『華アワセ』シリーズを作っていますが、その主人公の女の子が凄く好きなので、今の絵でいつか男性向けゲームを作って欲しいなと思いますね。


> 最近、私もkatanさんの影響でBL・乙女ゲーを立て続けにプレイして、ハマっていってます。

そう言ってもらえると、嬉しいですね。
まぁ、記事の需要はなさそうなんですけどねw
でも、めげずに週2・3本ずつ紹介していこうかと。
偏見を捨てて手を出したらハマれそうな人って、結構いそうだけどなぁ・・・

> 「薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク」「神学校」「越えざるは紅い花」など、
> どれも男性向け作品では味わえない面白さがあり、
> また、最近の男性向け作品が失っていった要素を持っている作品も多いですね。

どれも名作ですよね。
特に『神学校』は、あれを超えたら文句なしに傑作でしょって感じで、
個人的に一つの指標になっています。
優れた人材がアニメやラノベに流出したという人もいるけれど、それより先にすぐ側の女性向けゲームにシフトしただけとも言えるわけで。
由良さんや菅沼さんも、元は男性向けを作っていた人ですから。
松竹梅さんのように、もう最初から女性向けでデビューして才能を発揮している方もいますし、そういう時代なんだなと思います。
そして自分が求めているもの、今の男性向けにない物も、こっちにあるのだろうなと最近つくづく実感しています。

> それと、リクエストした最後の作品の感想も掲載してくれるようで、ありがとうございます。
> そちらのレビューも楽しみにしています。

え~っと、遅れてすみません、そしてあまり期待しないで待っててくださいw
他の作品ほどは気が乗らなかったものですから。
これは絶賛する人がいるだろうなと思いつつも、微妙に自分のポイントとずれた作品だったものですから。

「神学校」はすごかったですね。
同性愛という題材について真摯に描いていますし、
心理描写・恋愛描写の丁寧さも、男性向け作品の名作でも
なかなかお目にかかれないレベルでした。
シナリオライターの草壁祭さんは
女性向け作品でこそ本当の実力を発揮してますね。
この作品のレビューもすごい楽しみです。

リクエストした作品については、
katanさんにとって当てが外れたようで仕方がないですね。
私としては、katanさんの感想を読んで、
自分では気にならなかった作品の欠点に気付くことができれば、
それだけでも収穫だと思います。
これまで、世間では絶賛されている作品でも、
katanさんが酷評されている感想をいくつも読んできましたし、
katanさんくらいゲームをやっている人がどう感じるのかも気になるので、
高評価にしろ低評価にしろ読んでみたいです。
掲載を楽しみに待ってます。

> 「神学校」はすごかったですね。
> 同性愛という題材について真摯に描いていますし、心理描写・恋愛描写の丁寧さも、男性向け作品の名作でもなかなかお目にかかれないレベルでした。

テキストの好みは人それぞれなので、自分の好みを誰かに強いるつもりもないですが、途中読んでいて一番楽しめたBLゲーは『神学校』でしたね。
『神学校』をプレイして以降、フルプライスの男性向けで、このレベルで楽しめた作品は一本もないです。
本当に凄い作品でした。

> シナリオライターの草壁祭さんは女性向け作品でこそ本当の実力を発揮してますね。

これは本当にそう思います。
男性向け作品では特に印象に残らないライターなのですが、こうまで違うのかと。
水を得た魚って、こういうことを言うのだなと、とてもビックリしました。


> リクエストした作品については、katanさんにとって当てが外れたようで仕方がないですね。

4本リクエストされて、その内一本は既にプレイして下書きも書き終わっていて、掲載の順番待ち状態でしたから、あの後プレイしたのは3本になります。
その3本の中でプレイ前は一番期待していた作品でもあっただけに、正直なところ、やや拍子抜けの感はありました。
まぁでも、作品は面白かったですけどね。
記事を期待しないでというのは、自分なりの視点で新しく気付けたことがなくて、当たり障りのない面白味のない記事になって申し訳ないなって面が強いものですから。

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