『The Stanley Parable』

『The Stanley Parable』

『The Stanley Parable』は2013年にPC用として、
Galactic Cafeから発売されました。

メタフィクションを正面から取り入れた作品として話題になりましたね。

TheStanleyParable.jpg

<概要>


元々は2011年にDavey Wredenがリリースした、『ハーフライフ2』のMODであり、
それをリメイクして新作としてSteamなどで発売したのが本作でした。
尚、日本語版はありませんので、残念ながら英語版でプレイすることになります。

元がFPSのMODということもあり操作系統は典型的なFPSのそれになっていますが、
本作自体は戦闘をするものではなく、
1人称視点で進む3DのADVと考えて良いのでしょう。

<ストーリー>


主人公のスタンリーは、「427番」として勤務しています。
その業務内容は極めて単純であり、
毎日スクリーンの指示に従い、特定のキーを押すだけというもの。
主人公は何年もその業務を行っていたのですが、
ある日、全く指示がこなくなり、同僚たちの姿も見えなくなってしまいます。
一体何が起こったのかということで、
仕事場であるビルの中を探索するところからゲームが始まります。

特定のボタンを押すだけという単純な作業を行い続ける主人公は、
黙々とクリックやキー操作を行うゲームプレイヤーの分身です。
その時点で既に皮肉っているとも言えるのですが、
その後もプレイヤーの採った行動に対し、ナレーションでツッコミを入れてきます。
尚、このナレーターはゲームデザイナーの分身ですね。
例えばドアが2種類あり、先に進めるのが正解であるとすると、
正解となるドアは1つしかありません。
仮に左のドアが正解であるとした場合、
ゲームデザイナーとしては当然正解の方に進んでもらいたいので、
こちらが進む前にスタンリーは左に進んだと言うのです。
しかし、そこをあえて逆の方に進むこともできます。
そうすると、ナレーションで修正する説明が入ったり、揶揄したり皮肉ったり、
あえて間違えるプレイヤーを信じられないと馬鹿にしてきたりするのです。

そこに行くことは想定していないから作っていなかったとして、
作りかけの場面が出てくるなど、
作中のいたる所にゲームのお約束的な要素やパロディ要素が混ぜられており、
デザイナーの思惑に反する行動を採るプレイヤーに対し語りかけてくるのです。
従って端的に言えば、本作はメタ的構造を正面から扱った作品と言えるのでしょう。

<ゲームデザイン>


メタ的な内容のADVというものは、程度の差はあれど、昔からあるものです。
というか、最初期のコマンド入力式の時代を振り返ると、
そこはプレイヤーの分身たる主人公とゲームデザイナーの知恵比べの場でした。
そこではプレイヤーが何かのコマンドを打ったり選んだりするのに応じて、
コンピューター側がこちらに語り掛けてくるという構造を有しており、
根本的にADVというのはメタ的な要素を含んだ構造なのだと思います。
それが次第にストーリー性やキャラクター性が強くなり、
主人公とプレイヤーの分離が強まっていく方向性の中で、
少しずつメタ的な要素が減っていったと言えるのでしょう。
だからメタ的な要素を強めた作品が登場してきても、
懐かしさという感覚の方がまず浮かんできますので、
必ずしも斬新とは感じられないのです。

しかしながら、過去にあったから新鮮ではないと直結するものではなく、
現代的に再構成することで新鮮に感じさせることは幾らでもできるのでしょう。
国内のADVではメタ的な要素が入っただけで絶賛されるケースもありますが、
その様な自分が初めて触れたから絶賛するという安易な姿勢を戒めたいだけであり、
再構成され独自性を有するに至ったと言える場合には当然称賛に値するのです。

個人的に現代的に再構成されたメタ作品を見たいという願望もあったことから、
これまでにも幾つか、メタ的な要素を中心に据えた作品をプレイしてきました。
もっとも現在の国内のADVは大半がノベルゲーになっていますので、
メタ的なADVと言ってもノベルゲーばかりになってしまうのですけどね。
それら個々の作品に関しては既に感想を書いたものが複数ありますが、
ほとんどの場合において私は批判的に書いているように思います。
と言うのも、メタ的な要素はプレイヤーの存在を意識したものであり、
また過去のADVでは多少なりとも双方向性を有していたものでした。
従ってゲームデザイナーが一方的にこちら側に語り掛けるだけではなく、
こちらの意思も反映させることができたのです。
しかし現在のノベルゲー、更に言うなら国内の場合、
読むことを主とした読み物としてのノベルゲーばかりになっています。
そこでのメタ的要素というものは、
物語上の設定としてただ吐きだされるだけであったり、
或いはシナリオライターがこちらに一方的に語り掛けてくるだけであり、
プレイヤーの意思が反映されない一方通行の作品ばかりでした。
その段階で既に、ライターの意思に束縛・誘導されるという、
一方通行により双方向性を伴わないことへの窮屈さを感じますが、
性質が悪いことにライターの浅薄な知識・思想を押付けるケースがままあるのです。
既に解決した問題や思想に対し、お前ら分かっていないのだろという感じで、
浅はかなデザイナーの思想を押し付けてくるわけですね。
だから自明のことをドヤ顔で語るのを強制的に聞かされるような、
不快感を伴ってしまうのです。
これまでに酷評したケースというのは、上述の様なプレイヤーを束縛し制限し、
浅薄な知識・稚拙な思想を押し付けることに反発してという物ばかりです。

そういうのばかり見せられ、期待しては裏切られ続けてきただけにね、
メタ的なADVというものにウンザリし始めていた頃に、本作が出てきたわけでして。
故に、またメタ系かよと、最初は興味を抱けなかったのです。

故に、もし本作も国内のノベルゲーと同じ方向性だったならば、
私は酷評していたのでしょう。
しかし本作は、プレイヤーにまず行動を委ねています。
プレイヤーが任意で行動した結果に対して、お前は馬鹿だねと言ってくるわけで、
どれだけ罵倒されても自分の選んだ行動の結果なのだから、
罵倒すら心地良く笑えてくるのです。

本作は3Dで表現され、マップ内を直接移動させながら進めるADVですが、
ゲーム上の根本的な構造としては、「どれを選ぶのか」という選択肢の連続であり、
その点においてノベルゲーと異なりません。
しかし国内のノベルゲーが制限を増し、プレイヤーのやれることを絞る中で、
ライターの主張だけを押し付けようとするのに対し、
本作は無数の選択肢とその選択に対する反応をきちんと用意することによって、
まずプレイヤーの意思を尊重させつつ楽しませようとする点で異なるのです。

またノベルゲー的な選択肢による分岐構造の中でのメタ要素の楽しみというのは、
入力式やP&C式といった過去のADVにおけるメタ要素とも方向性を異にしており、
その意味でADVにおけるメタ要素を現代的に再構成したとも言えるのでしょう。

私は要求する物は多いかもしれませんが、満足するラインは低いと思っています。
本作に対しても言うほど斬新でないと感じる人もいるでしょうが、
他方で本作レベルの作品すらなかったのも確かであり、
個人的にはこれで満足って感じなんですよね。
私がいろいろ言っても理解してもらえないケースもありますが、
単純に求めていたのは本作のような作品であり、
百聞は一見に如かずということで、
今後は『The Stanley Parable』をやっとけと言えるのは有りがたいですね。

細かい点を補足すると、上記のように本作のシステム上のベースはFPSになります。
FPSのシステムをはFPS用に最適化され洗練された物ですから、
FPS用のシステムをADVに流用することは、必ずしも適しているとは言えません。
特に敵と戦うなどの緊張感を伴わない作品においては、
直接歩かせるのは無意味で、ただだるいだけというケースもありますから。
本作の場合、明らかにこっちに行くべきと分かっていても、
逆に行ったらどうなるのだろうという誘惑が常に存在するのであり、
その誘惑との葛藤を生み出す点で直接の移動も意味があったのかなと。
故に本作に関しては、これが最適な操作系統なのだとまでは思えないものの、
それでもシステムとジャンルの不一致のような不満は特に抱きませんでした。

<グラフィック>


グラフィックに関しては、何を重視するか好みが分かれそうですけどね。
雰囲気の良い作品とされる作品の中でも、
統一された画面構成の作品は個人的には好きでなかったりします。
先に進めたら一体何が待っているのだろう、
どんな映像が見られるのだろうという欲求が強いものですから。
同じような画面ばかりでは、次の場面を見たいという意欲が沸かないのです。

本作の場合、開始時は何の変哲もないビルの中です。
・・・まぁ、そのため、最初はプレイ意欲が沸かなかったのですけどね。
しかし先に進めると、「マインクラフト」のパロディのような、
遊び心のあるステージが出てきたり、
近未来的な雰囲気・ステージや、デュシャンを彷彿させるような、
アートないし芸術性を感じさせるオブジェクトが出てくるわけでして。
一つ一つの造形を見ていても楽しいし、
当然先に進めたら何が出てくるのだろうという期待も大きくなります。
個々の場面や物に対し、
これは何との類似性を見いだせると掘り下げるのも面白そうですが、
その辺は他所の詳しいサイトに任せましょう。
何れにしろ、変化も味わえることでグラフィックでも十分に堪能できました。

<総合>


個々の要素で秀でた部分があることはもちろんのこと、
全体としてメタ構造を現代的に再構成したADVとして十分に意義のある作品であり、
文句なしに傑作と言えるでしょう。
まぁ、小難しいことを抜きにすれば、色物っぽいネタゲー的側面は否めないものの、
それでも単純に楽しいと感じられる作品だと思いますね。

ランク:AA-(名作)

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