『蠅声の王』

『蠅声の王』

『蠅声の王』は2006年にWIN用として、
LOST SCRIPTから発売されました。

デビュー作でありながら、
デジタライズドゲームブックとして注目を浴びた作品でした。

蠅声の王

<ゲームデザイン>


とにもかくにも、デジタライズドゲームブックという内容に尽きるのでしょう。
80年代に流行ったゲームブックを限りなく再現しようとしたとのことで、
人によっては懐かしく感じるかもしれません。

具体的には、基本はノベルゲーということで読み進めるのですが、
戦闘などの場面でダイスを振ることになります。
その数値で結果が変わるのですが、ゲームブック感を再現しようとした趣旨からか、
ダイスの目の管理や数値入力がプレイヤーに委ねられているんですね。
そのプレイヤー自身にシステムが委ねられている感じが、
他のPCゲーと異なるのです。

まぁ、意図は分からなくもないのですが・・・
どうなんだろうな~
いや、最初聞いたときは、何だか分かったような分からないような、
不思議な気持ちになったのですよ。
だって、ゲームブックをコンピューターゲーム化したのが、
PCのノベルゲーなわけでしょ。
だから昔流行ったゲームブックをデジタル化しましたって言われても、
それじゃ他のノベルゲーの存在て何?とか思ってしまうのですよ。
だから発売前に聞いたとき、正直意味が分からんって思いました。

で、いざやってみて、なるほどダイスの使用が鍵になっているんだねと。
っていうか、『プロセルピア』を面倒にしたようなやつだと。
ゲームブック風ではなく、ゲームブックを忠実に再現しようとする試みは、
そう言えば久しぶりなのかもしれません。

それで思い出したのだけれど、私は初期のゲームブックは結構好きでしたが、
その後増えていった複雑なやつは嫌いだったんですよね。
つまり、Aを選ぶなら何ページ、Bを選ぶなら何ページって、
そういう単純なやつは好きなのです。
外で時間を待っているときとか、
ちょっとした暇つぶしにどこでも一人でも楽しめますから。
しかしダイスを転がしたり小道具を使うような無駄に凝ったやつになると、
外ではちょっとできません。
そういうのは、どうしても室内でとなってしまいます。
だけど室内で腰を据えて遊ぶのであれば、
もっと本格的なTRPGやボードゲームとかカードゲームの方が楽しいのです。
結局のところ無駄に凝ったゲームブックは、どうにも中途半端なのですよ。
それで私はゲームブックから離れたのですし。
ゲームブックが廃れた理由は何かについて詳しくは知りませんが、
私みたいなのも少なからずいたと思うんですよね。
本作が念頭において作ったのは、
その私があまり好きではないタイプのゲームブックだったということなのです。

それと、例えばCRPGなんかもTRPGを元にして発展したわけですよね。
TRPGは一人では遊べないというのもありますが、
いろいろ数値の管理とかが面倒だったりします。
それがCRPGによってコンピューターが全部処理してくれることになり、
誰でも気軽に楽しめるようになったわけです。
デジタル化の利点というのは、
かようにややこしい部分を処理してくれる点にもあります。
本作は各種入力をプレイヤーに委ね、上記のデジタル化の恩恵がありません。
なので、これをPCでやる必要があるの?って思ってしまうのです。
むしろ手間が増え、本で読むより面倒ですし。

昔懐かしいと言われれば私みたいなのが釣れますし、
知らない人には新鮮に見えて一石二鳥にも見えるのでしょうが、
何だか完全に奇をてらっただけのように見えてしまいました。

<ストーリー>


内容的には吸血鬼を題材にした伝奇もの。
可もなく不可もなく、普通に楽しめるって感じでしょうか。

ただ、ゲームブックをうたっているのなら、
もう少し横の広がり・分岐による展開の幅があっても良かったのかなと。
物語性を重視したいのか、ゲームブックであることを重視したいのか、
中途半端な感じであり、もう一つ意図が伝わってこなかったです。

<総合>


本来、こういうのは私みたいなのが率先してすすめるべきなのでしょうが、
残念ながら話題性を生むために奇をてらっただけに感じてしまいました。
再現しようとしたと言えば聞こえは良いかもしれませんが、
単なる模倣の劣化版にしか見えなかったですから。
本作には声もないですしね。
もう少し、「PCでの」ゲームブックとして、何か工夫の仕様があったでしょうに。
これでは手抜きの言い訳と捉える人がいても仕方ないかと。

私は単に読むだけではなく、何か変化を加えようとする姿勢は好きです。
本作は確かに単なる読み物ではないものの、
工夫を加えようとする姿勢は見られませんでした。
もう少し何かあるだろうと思っていただけに、残念でしたね。

ただ、単なる読み物は飽きたよ、
他方でゲームブックって知らないな~って人たちも増えてきていると思います。
そんな人たちには何か得たり考えたりする機会を提供できたとは思うので、
その点では意味はあったのかもしれませんね。

ランク:D(凡作)

蠅声の王

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この作品のシナリオ担当の方が今は無き、もとい有るけど2008年以降新作を出していないアボガドパワーズで「涼崎探偵事務所ファイル」シリーズを展開してるんですよね。蝿声の王ももちろん悪い作品ではなかったと思いますが、何らかの形で人工失楽園を出して欲しかった身としては若干の期待外れ感が否めず。

今作→続編の蝿声の王2→PSPで発売された「デッドエンド」→赤さんと吸血鬼、と同ライターさんの作品はメーカーを超えて世界観を共有しているんですが、特にAlcotハニカムの赤さんでライターを意識せず、もしくは知らずにメーカー買いしたライト層からシナリオの唐突さ、説明不足を指摘するレビューが多数挙がってましたっけ。

デッドエンドも終盤の展開は蝿声の王をプレイ済みでないと理解できないものでしたし、ずっとこの作風を貫くつもりだとすればどんどん間口は狭くなる予感。遅筆なのか書きたい分野以外だと筆が進まないのか、はたまたゲームブック形式の文体に慣れすぎたのか、赤さんでは唐突に神の視点と主人公視点が入り交じるというベテランライターにあるまじきミスを犯していたりで、これは、うん。

人工失楽園はもう、無いなと。

いっそ割り切って蝿声の王3に期待したいですが、メーカーのLost Scriptは2010年を最後に新作を出しておらず、ってなんかさっき同じような事書いたような。
なんだかんだで追いかけちゃってますし、好きな作風&ライターさんではあります。今作の主人公Esはカッコいいし。トラップで即死しちゃうウッカリさんですが。

> 何らかの形で人工失楽園を出して欲しかった身としては若干の期待外れ感が否めず。

一時期は発売が待たれる続編のトップ10入りが確実なくらいに切望されたのが、『人工失楽園』だったと思います。
私は必ずしもライターの熱狂的なファンでもないのですが、90年代ないしゼロ年代前半くらいに発売されていたら、絶対に買っていたでしょうね。
あの当時は凄く期待もしていましたが、もし今発売されても、追い続けてきたファンを満足させる出来になるのかは疑問であり、難しいところですね。

> 今作→続編の蝿声の王2→PSPで発売された「デッドエンド」→赤さんと吸血鬼、と同ライターさんの作品はメーカーを超えて世界観を共有しているんですが

ちょっと『長靴をはいたデコ』で気持ちが途切れたこともあり、以降の蝿声の王2、デッドエンド、赤さんと吸血鬼は未プレイでした。
赤さんと吸血鬼はグラフィックが気になっていたので購入予定だったのですが、臨時の出費のために様子見に。でも、評判は芳しくないようで。
同じライターでも失敗することはありますし、というか全部良作というライターは一人もいないと思っているので当然アタリハズレはあるのでしょうが、それにしても実績のあるライターの割に想像しにくいような酷評が多すぎるなと不思議に思っていました。
未プレイなので推測でしか書けませんが、赤さんと吸血鬼のシナリオの書き方だけに問題があるのではなく、大槻作品を知らないと理解できないというところが、説明不足という表現に盛り込まれていたんですね。
世界観が共通で、そのフォローが作中でなされていなければ、当然新規の人には分らないでしょうから、評判が良くないのも納得できます。
ライターの過去作をプレイしていた人の意見は知らなかったので、参考になりました。貴重な意見をありがとうございます。

98時代も経験したユーザーとしては、WINDOWS時代のライターばかりもてはやされるのも少し癪ですしね。
大槻さんは数少ない98時代からのライターでもありますし、ぜひとも復活してもらいたいものです。

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