『古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~』

『古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~』

『古色迷宮輪舞曲 ~HISTOIRE DE DESTIN~』は2012年にWIN用として、
Yatagarasu(八咫鴉)から発売されました。

考えながら遊べるADVをノベルの中で表現しようとした、
新しさと懐かしさの同居した作品でした。

古色迷宮輪舞曲

まずシナリオ上のジャンルなのですが、SF系のループものとなるのでしょう。
製作者自身が某作品のオマージュというか、意識して作ったそうなので、
その作品の名が挙げられることは必然ではあるのでしょう。

そこまでなら全然構わないのですが、何故かSF系の作品って、
すぐに他の作品の名もいろいろ挙げられる場合が多いです。
でもこの手のジャンルが登場する度に思うのですが、
結局のところいつもいたちごっこなんですよ。
若い人が斬新だとか新鮮だとか言い、
ちょっと古い人が別の「何々」と似ているだの何だのと言い出す。
でも、もっと古参の人から言えば、その「何々」にあたる作品だって、
別のもっと古い何かと似ているだろうにと思ってしまうわけでして。
仮にその点を指摘すると、その「何々」は独自に昇華しているとか言い出すのですが、
それを言うなら新作であるこの作品だってそうでしょとなるわけで。
昇華か模倣で終わったかなんてのも読み手次第で異なりうるし、
少し古いノベルを褒めつつ新作のノベルを褒めない場合は、
結局自分が最初に触れたものを何とか褒めたいだけの屁理屈に終始し、
実質的には何も有益なことを語っていないことが多いわけでして。
それにそもそもジャンルなんてのはある程度似た部分もあるわけで、
いちいち文句を言っていたら学園恋愛ものなども成り立たなくなってしまいます。
だからこういう作品が出ると決まって出てくる何々に似ている系の発言は、
個人的にはどれも阿呆臭いの一言で終わってしまうのです。

だから個別の作品名を挙げることには懐疑的なのですが、
それでも個人的に思うところも幾つかありまして。
まず『古色迷宮輪舞曲』好意的に見るならば、
様々に張り巡らせた伏線をきちんと回収していくあたりはしっかり纏まっており、
基本的に全体の構造は良くできていたのだと思います。
その時点で本作は、少なくとも単なる模倣には終わっていないのでしょう。
だから私は、好意的に見ることができるのです。

もっとも個別具体的な作品名を出さないにしても、
この手のジャンルとして良く見かけるようなシナリオ上の要素が多分にあり、
これは新しいなと思える要素がなかったことも確かです。
つまりしっかりまとめているので確実に及第点以上ではあるし、
シナリオに関して作品としての全体の構成の観点からは十分なのですが、
個々の部分で他にはない本作ならではと呼べるほどの長所が少ないこともまた、
確かなのかなと思うのです。

それと、私はこの手の作品を散々プレイしてきましたので、
読んでいて特に疑問もなく進んでいきました。
しかし終わってから気付いたのですが、この手のジャンルに免疫のない人には、
用語などに分かりにくい部分もあったのではないかと思うわけでして。
本作は考察云々といった複雑な類の作品ではないはずなのですが、
もしそう思ってしまう人が出てくるのだとすれば、
それは単にライター側で説明不足だったのでしょう。

以上から、トータルでは良い部分も少し物足りない部分もありますので、
シナリオ全体としても十分に及第点以上ではあるものの、
大きな長所とまでは言えないのかなと。

次にキャラは、一部シナリオに動かされているような部分もありましたが、
基本的に好きなキャラも多かったのかなと。
っていうか、古宮舞がかなりツボでした。それだけでも個人的には大満足です。

もっとも『古色迷宮輪舞曲』に関しては、むしろシナリオそのものよりも、
シナリオと後述するシステムの融合を狙った点を評価すべきなのでしょう。
シナリオにはそれぞれ適したシステムがあるはずであり、
それを実現できるのがゲームならではの特権なのです。
だから本来ならシナリオの数だけシステムも異なりうるはずなのですが、
現実には今のノベルゲーは同じ構造の読み物ばかりですからね。
そんな中で単に読み物に終わらせず工夫を加え、
それも取ってつけたようなミニゲームではなく、
シナリオに密接不可分なシステムをつけようとしたということで、
この姿勢は非常に応援したいところであります。
昔はこういうブランドが一杯あったのですが、今はほとんどないですからね。
それだけにいつも以上に応援したくもなるのです。

ただ、問題はその肝心の中身なのです。
細かい操作性に難があるなどの問題もありますが、それは一旦置いておくとして。
『古色迷宮輪舞曲』は基本は読み進めるノベル系のADVなのですが、
そこに幾つかのシステムが導入されています。
その1つが「キーワード」であり、
これはプレイ中のテキスト内に登場するキーワードを収集し、
それを別の場面でアイテムのように使用するというものです。
ノベル形式でこれをやったという点ではやや新しくも見えるのですが、
基本的には得たアイテムを利用するという、
インベントリーを用いた伝統的なADVと同様のシステムと言えるのでしょう。
ただ伝統的なADVが「物」を使用して先に進んでいたのに対し、
その物が「言葉」に代わったというだけに過ぎません。
だから見せ方やニュアンスという意味では新しそうに見えつつも、
基本的には昔から多くあったタイプと同じなのでしょう。

もちろんその見せ方やニュアンスの差別化を評価することはできるでしょうから、
斬新とまでは言えないにしても一定の評価はされて然るべきだと思います。
しかし問題はその完成度であり、理想を言うなら序盤は易しくしつつ、
次第に複雑かつ高難度にもっていくべきなのだと思います。
ADV作りの上手さというのはこういう部分に現れるもので、
上手い人はきちんと段階を踏んで作っているのです。
しかし本作の場合は序盤の紅茶の入れ方が最も歯応えのある部分でもあり、
その後はあまり有意義に使われていません。
その意味ではちょっと企画倒れのような感じでもあり、
端的に言えば練り込みが足りないわけですね。
もっとも、それでも単に読むだけよりはよっぽど楽しめるので、
このシステム自体は一応ありなのだと思います。

また別のシステムとしては「運命量」というのがあり、
これは何か行動をすると運命量が減ってしまい、
なくなるとゲームオーバーでやり直しになってしまうというものになります。
つまり無駄な動きをしないよう、
じっくり考えて行動しろという内容のシステムなわけですね。
作品の内容に応じて「運命量」という言葉にアレンジしていますが、
基本的には行動に制約を加えるタイプのシステムであり、
これまた昔の80年代のPCのADVに多く見られた方向と言えるでしょう。
総当りを防ぎつつしっかり考えさせるということで、
このシステム自体もありなのだと思います。

一つ一つはどれも十分にありだと言えるのですが、
厄介なのはその組み合わせなのです。
それこそ例えばポイント&クリック式のADVには、
インベントリーを用いてアイテムを使用させる形がセットになることが多いです。
あちこちクリックをするのはトライアル&エラーの精神であり、
どのアイテムを使うべきかを試行錯誤するのもまた、
トライアル&エラーの精神であり、両者は方向性が同じなのです。
方向性が一緒で組合わせても相性が良いから、
セットで用いられやすいわけですね。
本作でいえば「キーワード」システムがこれに該当するわけで、
基本的な楽しみ方の方向性はいろいろ試すことにあるのでしょう。
優れた作品というのは、そのトライアル&エラーにおける失敗の過程に、
プレイヤーを飽きさせない試みや次につながる何かを加えているものなのです。

他方で「運命量」は80年代のPCのADVに多く見られたような、
行動を制限することで総当りを防ぐような方向性を有しています。
これはこれで一つの方向性なので、十分面白くなる可能性はあります。
しかし「キーワード」システムの持つ方向性と、
「運命量」システムの持つ方向性は異なる、つまりベクトルが反対なのです。
自由に繰り返すことで本領が発揮できるシステムと、
制約することで考えさせるシステムは正反対とも言えるのですから、
基本的に相性が悪いのです。
本来なら食い合わせの悪いはずの組み合わせだけに、
美味しく感じさせるには相性の良い物同士の組み合わせ以上に、
より繊細で緻密な調整が必要となるのです。

相性の良い組み合わせ同士なら、多少適当でも何とかなるんですけどね、
そうじゃない場合はセンスや経験でもろに差が出てしまうのですよ。
理屈は分かっているけれど実際の調整が難しいことから、
昔のADV、特に洋ゲーのADVなんかも一見すると似ているような作品であっても、
実際にプレイすると良いのから悪いのまでいろいろ分かれてしまうわけですね。
本作の場合は結果的に「運命量」の調整が主になってしまい、
「キーワード」の方の魅力が十分に発揮できませんでした。
また、なまじ「キーワード」システムがあるものだから、
「運命量」調整ゲーとしての魅力に関しても、
若干足を引っ張られた感じになってしまいました。
むしろどっちか一本に絞った方が、結果的には面白くなったかもしれませんね。

システムはただ詰め込めば良いのではなく、組合わせも大事なのです。
組み合わせの相性に逆らいあえて茨の道を歩む場合、
もちろんこちらの予想を超える化学反応を生み出せれば、
なるほどこういう方法があったかと絶賛されるでしょう。
しかし失敗すればどのシステムも死ぬ危険があることも覚悟すべきであり、
だからこそ余計にもバランスに気を配る必要があったのでしょう。
フローチャートも変にいじろうとしてかえって分かりにくかったり、
全体的にとりあえず考えられる物を詰め込んでいろいろいじってはみたものの、
トータル面での配慮に欠けた作品という感じになってしまったのかなと。
難易度をどう感じるかはその人の経験次第で感じ方も変わると思うので、
個人的にはあまり興味のない話なんですけどね。
もっと本質的なトータルデザインの部分で、
未熟さを感じてしまったというところでしょうか。

2012年の総評だかどこかでも書いたのですが、
2012年は年内に新作の感想を一切書きませんでした。
当初は半年ほど寝かせた後で書く予定だったのですが、
書くに書けない状態が生じてしまいました。
その最たる要因がこの作品なんですよね。
(それと、『風ノ旅ビト』あたりもか・・・)
個人的には読むだけの紙芝居しかないという状況は飽き飽きしています。
ADVであっても、もっといろいろ工夫する作品があっても良いはずです。
そして『古色迷宮輪舞曲』は単に読むだけには終わらせないよという姿勢を、
明確に打ち出しているんですよね。
肝心の中身については上記のようにいろいろ思うところもあり、
私には大絶賛するということはできません。
できないのですが・・・、だからと言ってそれをそのまま書いて良いのか、
楽しんでいる人も多い中で水をさす真似をしても良いのか。
問題点はあれども、それでも単なる読み物の大半よりはずっと楽しかったです。
同じようなSFループ系の作品は他にあれど、
読むだけに終始していないだけで単なる読み物よりもずっと楽しめましたし。
そして何より、こういう形態の作品はもっともっと増えて欲しいと思うのが、
個人的な願望だったりもします。
そうであるならば、つまり私個人の願望成就の観点からは、
下手に不満などを書かずに絶賛する人の意見が増えるのを黙って見ている方が、
きっと良い結果を生むのではないかと思ったわけでして。
そう思ってしまうと、何も書けなくなってしまうのです。
まぁ年も明けたので、そろそろ良いかと結局は書いたのですけどね。
必ずしも文句なしに絶賛できる作品でもないのですが、
十分すぎるほどに楽しめたことも確かです。
久しぶりにアダルトゲームでADVをプレイしたって気になれたことは、
素直に嬉しいことだなと思いますし。
従って、総合でも名作に近い良作ということにしておきます。
特に何が言いたいってこともないのですが、
役にも立たないことを無駄にいろいろ葛藤してるんだなってことが伝われば、
個人の感想としてはそれで十分です。
そして何より、私個人の感想とは関係なしに、
もっとこういう作品が増えて欲しいなと思いますね。

ランク:B(良作)

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