アダルトゲームの歴史 1999年 その2

アダルトゲームの歴史 1999年 その2

アダルトゲームの歴史を振り返るシリーズの第49弾ということで、
1999年の2回目になります。

今回はグラフィック面の話と、99年の流れみたいなものを扱います。

さてグラフィック面について入っていきますが、これまでにも書いてきたように、windowsの時代になって一番増していったのがグラフィックの、更には原画とイベントCGである一枚絵の重みでした。
以前はゲームデザイン・システムの違いをアピールすることもありましたが、デザインやシステムが同じようなノベルの数が増えていきますと、それも中々できません。ストーリーのジャンルが大きく異なればそれもうりにできますが、大抵は恋愛をベースにしつつそこにプラスアルファを加えるものであり、その点もアピールしにくくなります。
もちろん同じ恋愛モノでもライターにより天と地ほどの差も生じますし、プラスアルファの部分での違いも大きく出てきます。しかしそれはプレイしてみなければ分かりません。サウンドも同様で、聞いてみないと分からない部分があります。音声のあるところはそれをうりにしたところもありますが、一般的にはまだ標準ではなく、音声の有無でアピールできるところも限られてしまいます。

というか、そもそも音声はまだ求められていなかったのでしょう。WIN95登場時に、これからは音声が標準になると予想した雑誌などもありましたし、リメイク作品などでは音声を付けることでWIN95用の作品としての特徴を示した作品も多かったです。
しかし、一般には音声は標準化されませんでした。音声が標準となるのはゼロ年代に入ってからです。これにはDVDの登場やコストの問題もあるでしょうが、何よりユーザーがボリュームや他の要素と比べた場合に必須の最優先の要素としてまでは求めていなかったからなのでしょう。
今なら内容の是非を問う以前にそもそも音声がないだけで不可と言うユーザーが多いので、フルプライスクラスでは音声なしで作品を作ることが事実上難しくなっています。まず音声ありきになっているわけですね。当時も絵やボリュームを犠牲にしても音声必須との声が高まっていれば、まず音声を付ける方向でゲームは変遷したはずなのです。
でも実際には、まず発展したのがグラフィックであり、そこからテキストの質や量を求める方向に進むわけで、90年代後半のユーザーは、もちろん音声があるにこしたことはないのですが、ボリュームや他の要素を犠牲にしてまで音声を必須とまでは考えておらず、あればプラスになるとしても優先順位自体は低いものであったということです。
興味深い例が1つあるのですが、『DARCROWS』(アリスソフト)は表で活躍する、しかも誰でも知っているような有名どころの声優が複数登場し、その方面でも話題になった作品でした。一部では話題になっていたので注目する人は注目していたのですが、まだ今ほど表の声優のギャップを楽しむ視点は普及していなかったように思います。この辺りは98年でも書いたのですが、表の声優を起用したり中にはウリにした作品はあったけれど、必ずしもユーザーの側で認識が追いつききれていなかったのでしょう。
この『DARCROWS』には、オマケでCDがもう1枚付属していました。そのCDをインストールすると、高音質の音声を楽しむことができたのです。言い換えれば通常の状態では音声の質が、そのCDのインストール前より劣るということであり、その劣る方を標準としていたわけです。何で劣る方が標準だったのか。この時代を経験した人はすぐにわかるでしょうが、そうでない人はここで一度考えてみてください。
windowsの時代になりHDDはPC98時代より格段に安くなりましたが、それでも高価なものには違いありません。高音質のボイスCDをインストールするとHDDも大量に消費しますので、音声とHDDの消費を天秤にかけた上でこのような形式に落ち着いたのでしょう。高品質なボイスがアペンド扱いになる辺りに、この当時の音声の位置付けも見えるように思います。
他方でコンシューマーのギャルゲーでは『ときメモ』以降の伝統でフルボイスが当たり前という状態になっていましたし、それで育った世代には音声は当たり前の存在として必須になるでしょう。90年代後半のギャルゲーで育った世代が18禁のゲームに手を出し始めるのがゼロ年代始め頃になるでしょうから、ゼロ年代前半にアダルトゲームでも音声が必須になっていったのは、起こるべくして起きた変化だと思います。
このように他の部分でアピール・差別化が図りにくいとなると、売上の面では必然的にグラフィックの比重が大きくなってしまいます。

98年にはグラフィックとキャラに頼ることに限界を感じ、シナリオ部分も重視していく方向に転換すると共に口コミによる広がりで人気になっていくゲームも出てきました。後のシナリオ重視時代へつながる流れでもありますから、馴染みのある方も多いでしょう。もっとも基本的にはまだグラフィックが前面に強調される時代は続いていたのです。
いつの時代もグラフィックの良い作品が売れる傾向がありますから、その傾向は今でも続いているとは言えますが、ましてや当時は、数年後に訪れるみつみクローンによる萌えの画一化の前の時代ですから、同じ萌えと言えども、原画家の個性や方向性の違いも今よりハッキリしていたんですね。だからこそ、余計にも人気を得られる原画家の存在がより一層大きかったのです。

この頃の代表的な原画家を見てみますと、『とらいあんぐるハート2 ~さざなみ女子寮~』の都築真紀さんはこのシリーズで人気を得ていましたし、話題を呼んだ新人という観点からは、『Partner ~世界でいちばんたいせつなひと~』のTonyさんも外せません。
肝心の中身に恵まれずTony伝説(絵は最高だけれど、中身が毎回・・・ってパターンですね)なども後に生まれましたが、中身が駄目と分かりつつも売れ続けたくらい、絵やキャラに絶大な人気があったものでした。

また陵辱系ではこれまで、萌え系作品に登場するような可愛い路線のキャラがほとんどいませんでした。しかし『夜勤病棟』のような萌え恋愛系のノベルにも普通に使われそうなキャラが陵辱ゲームにも使われだし、そして大ヒットにつながった点も99年の変化として挙げられるように思います。

厳密には原画とは異なるものの、演出全般ということで『GREEN ~秋空のスクリーン~』がフルアニメーションで製作し、windows時代以降のアダルトゲームにおけるアニメーションとしては、以後数年間は最高峰の地位にありました。
もっともかなり長い間越える作品が出ないというのは、裏を返せばそれだけ対抗馬がいないということでもあり、それだけ1枚絵に全てを賭ける路線が強かったことの裏返しでもあるのでしょうけどね。

そして、一番忘れてはならないのが、リーフ東京開発室の『こみっくパーティー』なのでしょう。原画はみつみ美里さんと甘露樹さん。特にみつみ美里さんはゼロ年代前半に「みつみクローン」と呼ばれるくらい似たタイプの絵が増えていくことからも、それだけ萌えにおけるインパクト及び後への影響が大きかったのでしょう。因みにこみパは塗りも秀逸で、256色表示ではおそらく最高峰にあったのではないでしょうか。

『こみっくパーティー』は、恋愛ゲーの歴史を語る上ではおそらく絶対に外せないタイトルなのでしょう。
『こみっくパーティー』を作ったのはこれまでのリーフではなく、新規に設立されたばかりのリーフ東京開発室でした。そしてそのメンバーである原画のみつみ美里さんと甘露樹さん及びライターのCHARMさんというのは、カクテルソフトで『Piaキャロットへようこそ!!』を作った人たちです。
つまりカクテルソフトからメインメンバーを丸ごと引き抜いてきたわけで、服装はリーフでありつつも、中身はアイデスという構造だったのです。
このブランドの特徴はこうだとかって話に興味のない人や、好き嫌いなく恋愛ゲーム全般を満遍なくプレイしていた人には、リーフに開発室が1つ増えたところであまり違和感はなかったかもしれません。
しかし、これまでのリーフに深くこだわりがある人ほど、全く方向性の異なる存在である東京開発室という存在に、激しく違和感を覚えたのではないでしょうか。

問題はその違和感が、ある程度の好みの範囲で話が終わらないことにあります。
これまでの恋愛ゲーも必ずしも1つの方向性だったわけではなく、市場の大半はアイデス系の作品でしたが、リーフ系はこれとは異なる特徴を有していました。
前者はグラフィックでは一枚絵の美しさとそこから生み出されるキャラクターを重視しており、シナリオもキャラを立てることを最優先にしてしました。後者は単純記号化属性化されたキャラを用いる点は類似しているものの、一枚絵よりも立ち絵の変化を重視しつつ、シナリオも意識することで必ずしもキャラ最優先ではありませんでした。
極端な単純化は誤解を招く原因にもなりますが、大雑把に纏めれば一枚絵・キャラのアイデス系と、立ち絵・シナリオのリーフ系ですね。ライト層に幅広く売れるのは前者で、同人作家ら一部にマニアックな人気を得やすかったのが後者という特徴もあったでしょう。
厳密に書き出すともっといろいろあるのですが、何れにしろ両者は共に恋愛ゲーを作りつつも、似て非なるものでした。その一方のアイデス系の代表格を丸ごとリーフに引っ張ってきたわけですから、こだわりのある人ほど違和感が出てくるのです。(この点に関し、リーフ東京開発室の動向次第で流れが大きく変わるとの意見は、こみパの発売前から一部では既にありました。市場の流れを読める人というのは、こういう人なのでしょうね。しかし正直なところ、当時の私にはあまりその意味が解っていませんでした。)

だからいろいろ当初は期待も不安も入り混じっていたのですが、リーフ東京開発室のデビュー作でもある『こみっくパーティー』は、セールスという観点からは結果的に大成功しました。
256色作品で最高とも言われる一枚絵の美麗な塗りもあり、従来のアイデス系を好むライトユーザーや一般的なエロゲユーザー層を抱え込み、他方で同人即売会を舞台にしたサクセスストーリーを描くことで同人に馴染みのある人との親近感を演出し、これまでのリーフを支えてきた同人市場や濃いオタク層も獲得しました(ついでに言えば、作っている人たちも同人出身)。つまりアイデス系とリーフ系の2つの、時には相反する存在でもあったはずのファン層を、共に獲得する事に成功したのです。
加えて、これまでどっかの小説にエロをつけただけの読み物なんて馬鹿らしいとノベルを敬遠していた98時代からの古株のユーザーたちも、同人誌を題材にした目新しさと、それに同人誌制作のミニゲームによるゲーム性を加えることで抵抗なく抱え込むことに成功しました。
シナリオ重視の初期のリーフファンに『こみっくパーティー』がうけたかはともかくとして、それ以外の多方面からの支持を得ることができたわけですね。

ここで、恋愛ゲーにおけるこれまでの複数の流れの統一・集約、或いは再構成がなされたのです。皮肉にもリーフ東京開発室によって、アイデスが進めてきた90年代後半的な恋愛ゲーの集大成が作り出されてしまったということです。
そして一連の動きにずっと関わってきたのがみつみ美里さんと甘露樹さんらでした。90年代のPC-98時代が蛭田さんやTADAさんや剣乃さんというゲームデザイナーの時代であったのに対し、90年代後半の一番の勝者は誰かと聞かれたら、結果的にはこの両名であり、原画家の時代だったのかなと思えてくるのです。

リーフ東京開発室というのは、様々な意味で決定的な存在だったのでしょう。
主力を引き抜かれたアイデス(後のF&C)は、他にも要因はあるものの、以後は緩やかではありつつも下降の一途を辿ります。長く御三家として名を馳せ活躍し続けていたアイデスは、事実上その名が消えてしまい、引き抜かれたメンバーの存在と共にその功績まで奪われ、年とともに少しずつ果たしてきた役割・貢献が忘れ去られていきます(アイデスから社名を代えたF&Cの作品はゼロ年代後半に入る頃までは結構売れていますがその数は次第に減っていきますし、御三家たるアイデス視点で歴史を語る人はいなくなりましたからね。実質的にはこの時点で終わったのかなと。)。

他方でリーフ東京開発室の存在は、上述のようにリーフ本流とも全然異なるわけでして。本流である初期のリーフを支えた高橋龍也&水無月徹コンビも、間もなくリーフを去ってしまいます。
個人的な印象ではありますが、リーフの名前・形が残り、その中身としてはアイデス系の理念が残ったという感じなんですよね。ある意味リーフ東京開発室は、アイデスだけでなく、元のリーフにすらも引導を渡してしまったのかもしれません。

このように『こみっくパーティー』という1つの集大成が生み出される一方で、グラフィックとキャラだけでは満足できないとして、恋愛ゲーに良質のシナリオを求める動きも前年から次第に大きくなっていきます。
そのようなシナリオ重視の動きを支持するユーザーの受け皿となったのが、keyの『Kanon』だったのでしょう。おそらくリーフ東京開発室に違和感を覚えた古くからのリーフファンなんかでこちらに流れてきたって人も多いでしょうし。
ここら辺は、語り手次第で景色が変わってくることが多いように感じます。『こみっくパーティー』はエルフやアリスやアイデスといった大手の「新作」を売上の面でも勝っており、名実共に最大手の仲間入りを果たした作品と言えるでしょう。誰もいなかった競争相手のいなかった年の『To Heart』とはそこが違うのです。特にエルフの新作を上回ったというのが象徴的でした。御三家或いは東のエルフに西のアリスとは言っても、実質的な一人横綱はエルフだったのですから。そのエルフの新作を上回ってこそ、初めて世代交代と言えるのでしょうし。
またアニメ化されたのは他の作品もありますが、4年間も漫画が掲載され長期に話題を提供した点などはメディアミックス的な視点からも興味深いと思います。
しかしシナリオだけを重視する人などは、この時点で興味がkeyに移ったりしていますので、『こみっくパーティー』の存在がかなり軽く扱われ、中には名前すらまともに出さない人もいますから、語り手によって大分景色が異なって見えてしまうのです。



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