トータルディストーション

トータルディストーション

『トータル・ディストーション』は1995年に、
MAC及びWIN用として発売されました。

オリジナルは同年に発売された『TORTAL DISTORTION』で、
本作はそれの日本語版となります。

尚、日本語版のMAC版はBMGベクターからの発売で、
WIN版はNECインターチャネルからの発売となります。
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<総論>


リアクター社のジョー・スパークスはマイク・セアンツと共に、
『スペースシップワーロック』を作り上げました。
これは一方ではADV業界における、
インタラクティブムービーと呼ばれる新ジャンルの誕生につながり、
他方ではMacroMedia Directorをオーサリングツールとした、
CD-ROMコンテンツの拡大という、
マルチメディア時代を牽引する要因となりました。

『スペースシップワーロック』を作り上げたメインの2人は、
その後、違う道を歩むことになります。
その内の1人、ジョー・スパークスはポップ・ロケッツ社を設立。
3年半の歳月をかけて、
1本のインタラクティブムービーを制作しました。
それが、この『トータルディストーション』なのです。

ジャンルはミュージックビデオ制作ADV。
『スペースシップワーロック』においてジョー・スパークスは、
プログラムのほぼ全てだけでなく、
一部ムービーのほかに音楽も全て作っています。
ゲームクリエイターで音楽も作れる人も珍しいですが、
本作はそんな彼らしい作品と言えるでしょう。

本作に関しては正直なところ、
ADVと分類するのも強引な面があります。
スパークス自身も今までのゲームとは全く違ったものであり、
分類が難しいと述べていますしね。
ただ、個々の要素にどういったものが含まれていようとも、
本質的な点ではADVなのだと私は思います。
もっともそこら辺の細かい内容については、
一旦後にまわすことにしまして、
まずは本作の位置付けに限って見ていきたいかと思います。

さて上述のように『スペースシップワーロック』の登場により、
インタラクティブムービーと呼ばれる作品が多数登場しました。
つまり音と映像、その融合にこだわり、
重点を置いた作品が増えたわけですね。
もっとも音や映像の重視という観点自体は良いのですが、
これを消極的意味で捉える作品が多かったのです。
すなわち、音と映像さえ優れていれば、
ゲーム部分は2の次で構わないって作品が多かったわけですね。

因みに、このことは、
近年のノベルゲーの大多数にも当てはまるでしょう。
ストーリーを読ませたいのだから、
シナリオ・テキストこそが重要なのであって、
ゲーム部分は2の次で構わないって感じですからね。
まぁ、それでもそれらのジャンルを好きな人は多いし、
好きな人にとってはそれはそれでも構わないでしょう。

でも、ある要素にだけ偏り、他を蔑ろにしたジャンルというものは、
次第に閉塞感が漂ってきます。
近年のノベルゲーも出尽くした感や、
先がないような雰囲気が漂ってきてますが、
ノベルゲームよりも先に、
インタラクティブムービーが同じ状況を迎えました。
優れたムービーと優れたサウンドだけでは、
やっぱり飽きられてしまうし、
作る上でも他と差異のある物を生み出すのは難しいからです。
そこで、元祖を作った本家は積極的意味で捉えなおし、
インタラクティブムービーのありようを新たに提示したのです。

そもそも、従来のゲームはジャンルと呼ばれる何かしらの、
一定の形式にのっとた作品が多かったわけです。
そしてそれらジャンルの多くは、
プレイヤー側の行為内容によって分類されます。
しかしインタラクティブムービーは、
そのようなプレイヤーの行為内容ではなく、音と映像が主だという、
プレイヤーの行動に対する返答で分類したものであり、
プレイヤー側の行為内容については曖昧な分類なのです。
確かにインタラクティブムービーの多くは、
何かしらのADVの形式をとっています。
インタラクティブムービーでP&C式ADVの形式を採っているものは、
言い換えれば音と映像の優れたP&C式ADVでもあるわけです。
考えてみれば音と映像が優れた作品なんてのは、
どのジャンルにだってあるわけですからね。
優れた作品が出てきて、それが従来の区分で説明付くのなら、
それで十分なんですよね。
優れた作品がP&Cのような従来の区分に分類されてしまうと、
残ったのはゲーム的にはカスばかりです。
つまりP&C式ともコマンド選択式とも選択肢型とも呼べないような、
たまに2択が出てくる程度の稚拙なゲームばかりが、
インタラクティブムービーとされてしまうのです。
それ故にインタラクティブムービーは、
ムービーしか取り得のないジャンルと思われやすいのです。

でもゲーム性が希薄なことは、
何もインタラクティブムービーの条件なわけではありません。
行為内容で分類されていないのなら、
裏をかえせばその方面は何だってありなんですよね。
詳しくは後で述べますが、
本作にはSLG的要素もRPG的要素もACT的要素もあります。
だから、個々の要素だけを拾い上げれば、
これをADVじゃないと感じる人もいるでしょう。
でも全体を通してみると、
一人の映画ディレクターになりきる作品なのであり、
ナラティブな体験のできる雰囲気は、まさしくADVなんですよね。
そして多岐に渡る各要素は結局のところ、
音や映像を如何に効果的に表現できるかという観点から、
手段として選ばれた結果であり、
どれだけゲームが凝っていようとも主役は音と映像なのです。
従って、いろんなジャンルのシステムが含まれていようとも、
本作はインタラクティブムービーという表現こそが最適なのです。
旧来的なジャンルの融合やボーダーレス化は、
近年のゲームでは当然のようにあることです。
本作はそれを先駆けて実行したわけですが、
音や映像による世界観や設定が基礎にしっかりあるから、
統一感を持った作品としても仕上がっているのです。
インタラクティブムービーはどういう風にあり続けるべきなのか、
その可能性を明確に示してくれたのが本作だったのだと思います。

ちょっと長くなったので、もう1つの大事な点は短くいきます。
上記のようにスペースシップワーロックは、
MacroMedia Directorをオーサリングツールとした、
CD-ROMコンテンツの拡大に多大な貢献を果たしました。
90年代中頃までは、
ゲーム以外のマルチメディア作品も多数ありましたが、
今ではあまり見かけないですよね。
これは1つには飽きられてしまったというのがあるのでしょうが、
いまいち使い勝手が悪かったというのも大きかったと思います。
MacroMedia Directorを使った作品も同様で、
どうにもクリックしてからの応答とか反応が鈍かったんですね。
それでDirectorは時代遅れだとして、
新たなツールに移って作られた作品も多いのですが、
本作はそれでもDirectorを用いてきました。
しかも、かなり快適に動作するのです。
第1人者が使うと、こうも違うのかと思わされたと共に、
Directorの持つ可能性を示したという点でも、
本作は大きかったのでしょう。

どのジャンルにも元祖があれば、
突き詰めた到達点のような作品もあります。
『スペースシップワーロック』によって、
ジャンルの元祖を切り開いた製作者が、
その内容を突き詰め頂上までたどりつきつつ、
その先まで切り開いて見せた。
それが『トータルディストーション』という存在なのでしょう。

<ストーリー・ゲームデザイン>


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さて、ここから具体的内容を見ていきたいと思います。
本作の目的の中心となるのは、
何と言ってもミュージックビデオ作りです。
様々な素材を集めてそれを編集し、
オリジナルのミュージックビデオを作るのです。
結構細かく出来ますので、
この部分だけ見ればSLGとも言えるのでしょう。
『ディレクターズチェア』とか『3Dムービーメーカー』とか、
最近では『ザ・ムービーズ』とか、
少ないながらも映像編集SLGってありますよね。
あれと同じような感じなので、
その類の作品が好きな人なら楽しめるでしょう。

そして本作の主人公はミュージックビデオのプロデューサーなので、
出来上がったビデオを売って資金を得ることになります。
もちろん内容がよければ高額だし、その逆もまた然りです。
そして資金が増えれば、より良い映像を作れるようになります。
ここら辺の感覚は経営SLGですね。

ビデオ作りに用いる映像素材は、
資金に余裕があれば購入しても良いのですが、
直接獲得しに行くことが出来ます。
具体的には、SF的な要素もある本作では次元間旅行が可能なのです。
装置を使って様々な異次元世界に行き、
そこで素材を得ることが出来るのです。

その部分に関しては、最先端のCGで描かれた多くの独特な世界に、
ちょっとした謎解きが用意されているわけでして。
ここら辺はMYST系ADVと良く似た雰囲気で、
インタラクティブムービーとしての本作の魅力も、
ここで存分に発揮されます。
一つ一つの世界は短めではありますが、
その分他のMYST系ADVより多くの世界が用意されています。
好みにもよりますが、たくさんのいろんな世界を満喫したい人には、
こういうのは向いているかと思いますね。

尚、行った先の世界では行く手を阻む者も出てきます。
となると、当然戦闘です。
そういう意味ではRPGっぽくもあるのですが、
音楽をテーマにした作品だけあって、
本作では戦闘もギターを使って行います。
もちろん良いギターの方が戦闘は楽になるのですが、
システム的には音ゲーっぽくもありますね。
因みに、ギターのCGも21種類用意されています。
RPGでも武器ごとにグラフィックが変わると嬉しかったりしますが、
そういう収集の楽しみという点も本作は抜かりなかったですね。

こうして素材集めのための冒険と、
集めた素材を編集するビデオ作りが基本となるわけですが、
生活するということはそれだけではありません。
何事も体力からってことで、食事を作らなければならないのです。
いろんな材料をかけあわせることで、
様々なフードやドリンクが作れます。
ここは『無人島物語』やアトリエシリーズといった、
アイテム作成系のSLGな感覚ですね。

何とも生活臭の漂ってくるゲームですが、それだけではありません。
プロデューサーの生活を作り上げる・表現するということで、
本作には寝室もあれば書斎もあります。
もちろん、これらは単にあるわけではありません。
寝たら夢の中でミニゲームになることもありますし、
書斎に行けば40冊を超える書籍があります。
この書籍ってのがまた凝っていて、
それぞれが単独でも良く出来たミニゲームになっているのです。
こういうやりこみ要素が好きな人も結構多いかと思いますし、
本筋を忘れてミニゲーム三昧な人もいたでしょうね。

単に素材からムービーを製作するというのではなく、
一人のキャラになりきって行動するという点で、
やっぱり全体的に見ると本作は、
ナラティブな体験を重視したADVだって思えてくるのです。

かように、本作は隅々まで凝っています。
それはゲームオーバーになった場面でもそうで、
「アンタは死んだ、死んだ、死んでしまった・・・」と、
珍妙な歌が流れてきます。
これはVGChartzが選んだベストなゲームオーバー画面トップ10の、
なんと第1位に輝いたそうですね。
細部にまでこだわった本作の1つの象徴が、
その画面にあると言えるでしょう。

全体の流れとしては、
国内なら『ようこそシネマハウスへ』に似ていますね。
シネマハウス系が好きならば、きっと本作も楽しめるでしょう。
むしろ個々の要素はシネマハウスより格段に進化していますし、
本作を最高のゲームと評する人がいても何ら不思議でないわけで、
それくらいお見事な作品でした。

<感想・総合>


マクロな観点からの本作の持つ意義に、
ミクロな観点からの細部にわたる作り込みと、
非常に充実した作品であり、名作であることは間違いないでしょう。

ただ、それでいて何で下のようなランクになったのか、
その点を最後に書いて、
本作の持つ潜在的限界も考えたいと思います。

まずは主観的な面ですが、
本作は様々な凝った要素が導入されていて、
そのどれも面白いのですが、
これらは結局世界観を示すための手段でしかありません。
つまり、いろいろ理屈を付けて説明しても、
結局のところは、その世界観にどれだけハマれたかが、
作品の評価にも直結してしまうと思うのです。

例えば、『ようこそシネマハウスへ』でもいろいろやりましたが、
結局最後に残るのは、あの魅力的なキャラたちと世界です。
そこに惹かれたから私は絶賛したわけです。
しかし、本作のいかにも洋ゲーっぽい雰囲気には、
正直私はあまり惹かれなかったのですよ。
一流画家の書いたリアルなお婆さんの絵と、2次元の萌えキャラの絵。
世間の評価は前者の方が上なのかもしれませんが、
私はやっぱりアニメやゲームが好きな人間なので、
眺めるのなら後者の方が嬉しいです。
本作でも可愛いキャラや魅力的なキャラがいれば、
また全然違ってくるのでしょうが、こればっかりはね・・・
まぁ、ここはあくまでも私の好みの問題が大きいんですけどね。

もう1つ、今度は客観的な面です。
上記のように本作は様々な要素があります。
しかしジャンルというのは伊達ではなく、
それぞれに好きな人もいれば嫌いな人もいます。
ADVもSLGもRPGもACTも音ゲーも偏りなく全部好きって人は、
案外少ないのではないでしょうか。
SLGだけでもアイテム作成系や経営系、
それに映像編集とさまざまな要素があって、
そのどれも楽しみ方が異なりますし。
含まれる要素が多いと記事で書く方は長くなりますが、
だからと言って必ずしも素晴らしいとは限りません。
例えば謎解きが好きな人が100%謎解きだけのゲームをやって、
その謎解き部分がよく出来ていればずっとプレイは楽しいでしょう。
これはどのジャンルに置き換えても言えますよね。
でも、いろんな要素が少しずつの割合で含まれている場合、
自分の好きな部分は楽しめるけれど、
そうでない部分はあまり楽しめないでしょう。
そういう意味で本作は本質的に大絶賛されにくいし、
売れにくいタイプの作品なのだと思います。
そのジャンルが好きな玄人も満足できるというのは、
逆に初心者にはきつい場合もあります。
なまじどの要素も良く出来ているだけに、
だからこそあるジャンルが苦手な人には辛くなりえます。
分析すると良く出来ているはずなのに、直感的に楽しめない。
それが本作の持つ潜在的な問題なのかもしれませんね。

まぁ、いろいろ書きましたが、
それだけの必要性があった作品なのは間違いないでしょう。
評価には当然幅が出てきますが、
私の評価は本作がなされるべき評価ではかなり低い方だと思います。
何れにしろ、ADVの歴史を振り返る上で非常に興味深い作品でした。

ランク:AA-(名作)

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今HAMAってます(おさがりですが)
格好つけると 絶対音感です
ホントにカッコイイPVを評価してくれたら
なおおもしろいのに・・・

>>ataroumonbaoさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
今はまってる人がいて嬉しいですね。
発想は抜群のゲームでしたので、もっと練りこんであったら完璧だったんですけどね。

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