ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者
『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』は、
1988年にディスクシステム用として任天堂から発売されました。
正確には前編と後編の2回に分けての発売だったわけですが、
発売日は1ヶ月しか違わない上に1本の値段は通常の半額なので、
両方で1本と考えて良いかと思われます。

崖の傍で倒れていた主人公は、「天地」という男性の声で目を覚まし、
介抱を受け意識を取り戻す。
その後、自らが倒れていた現場へ出会った少女「橘あゆみ」から、
自分が「空木探偵事務所に所属する探偵助手」であること、
そして『突然死を遂げた資産家・綾城家の当主「綾城キク」の死』について
調査を依頼されていたことを知らされた彼は、
自分の名前を思い出した後「明神村」にある「綾城家」に向かう。
うらびれた寒村、明神村一の資産家である綾城家には
「死者が蘇り綾城家に仇なす者を殺す」という奇妙な伝承が代々、
言い伝えられていた。
当代当主であったキクの死によって村全体に不穏な気配が立ち込める中、
ついに事件は綾城家の関係者を巻き込んだ連続殺人事件に発展し、
キクの残した財産を得ようと目論んでいた人間たちが
次々と死を遂げていく・・・
ジャンルはコマンド選択式のADVになります。
ミステリーといっても、中にはいろんなジャンルがあるわけでして。
当然好きなジャンルもあれば、苦手なジャンルもあるでしょう。
私なんかは、ハードボイルドの良さがイマイチ分かりませんし。
では何が好きなんだって聞かれたら、
やっぱり乱歩や横溝といった作品になるんだと思います。
ところで、80年代は推理ADVの盛んな時期でした。
しかしよく考えてみると、横溝風のストーリーのゲームってなかったんですよ。
当時の一番好きな推理ADVは、やっぱり堀井さんの3部作だったわけですが、
これは80年代に流行していた社会派になりますしね。
つまり、推理ゲームは一杯あれど、
私のストライクゾーンど真ん中な作品はなかったのです。
そして、そこに出てきたのが本作です。
これはもう、モロに好みでしたね。
横溝作品みたいな雰囲気が伝わってきて、これだよこれって思いましたもん。
雰囲気だけじゃなく、物語としての出来も良かったですしね。
この作品が今でも語り継がれる最大の理由として、
ストーリーの存在は絶対に外せないでしょう。
それだけ素晴らしいストーリーでした。
もっとも、本作がうけた理由は、それだけではないのでしょう。
当時はゲームをプレイする人、特にファミコンユーザーは子供ばかりでしたし、
RPGでもそうですが主人公と自分を同化させる傾向も強かったと思います。
そうなると、いかにも推理小説をゲーム化したような作品だと、
主人公がオッサンばかりで年齢が高くなってしまうのです。
子供の視点からオッサンの主人公に感情移入しようと思っても、
どうしても無理な部分もありますし、違和感も生じるでしょう。
私は『京都龍の寺殺人事件』とかも大好きでしたが、
どう考えても小学生の間で大ヒットって想像できないですからね。
ADVをファミコンで普及させるには、
子供が普通に入っていきやすいゲームの存在が何より必要だったのです。
その点、本作の主人公は10代の子供でした。
なので、これまでのオッサンらよりも感情移入も容易だったと言えるでしょう。
ストーリーも無駄に複雑になっていませんし、
プレイしていて、すんなり入っていけるんですね。
他の推理ADVと本作におけるこの差は、
実は結構大きかったのではないでしょうか。
この頃の私は、推理小説ではアガサ・クリスティとか、
エドガー・アラン・ポーとか有名な海外作家の翻訳物にはまりだした頃で、
この違いは、あまり感じられなかったかと思います。
でも、周りの評価から鑑みるに、
やっぱりこの部分が大きかったんだろうなと思うんですよね。
かように、本作の最大の魅力はストーリーにあったと言えるでしょう。
単に私好みっていう側面も否定できませんが、
個人的には80年代でもトップクラスの出来だと思います。
じゃあゲームとしてもトップクラスかというと、
それが必ずしもそうでないわけでして。
ゲームっていうのはいろんな要素から構成されていますからね。
ストーリーだけ良くても、必ずしも傑作とは言い切れません。
本作の場合、ストーリー以外の面では特徴がないんですよね。
グラフィックもサウンドもゲーム性も水準以上はキープしていますが、
それ以上に長所と言えるほどには優れていませんでした。
いや、ゲーム機の推理物はまだ少なかったので、
あまり比較対象もないんですけどね。
PCのADVの名作と呼べる物と比べた場合に、
それでも尚こっちが優れているとまでのものはなかったように思います。
システムはオーソドックスなコマンド選択式のADVでした。
これもさすが任天堂というか、かなり上手く作られているとは思います。
でも、長所と言えるほどには至ってないわけでして。
もう少し説明しますと、本作は不要なコマンドを省くような配慮がなされ、
難易度が下げられています。
本作はコマンド選択以外の部分で、
例えば情報を入力するなど考えさせる要素が含まれていますので、
総合でのゲーム性は十分に確保しています。
全体でのバランスが良いから、ゲームとして楽しいわけですね。
だから本作に関しては良かったと言えるのですが、
ここで不要なコマンドを省略するという方向性が芽生えたことも事実です。
以降のファミコンのADVは、正解以外のコマンドを減らす方向に変化していき、
中には正解のコマンド以外登場しない作品も登場することで、
ゲームのボリューム不足に一層の拍車をかけてしまいます。
また、このようなコマンド数の減少傾向は、
80年代のPCゲーのコマンド選択式のように考えてプレイするのではなく、
コマンド総当たりを前提とした構造への変化につながっていきます。
これは読みやすく子供でもクリアできる点では良いのですが、
ADVのゲーム性という観点からは確実に退化と言えるでしょう。
本作のように代替要素があれば、まだマシなんですけどね。
以上から、本作自体は良かったと言えるものの、本作の後に及ぼした影響は、
ADV業界にとってはマイナスだったように思うわけで、
もちろん安易に模倣した後続の作品に問題があるのであり、
本作は悪くないのですが、少し複雑な気持ちにはなってしまいます。
それに加えてボリュームの問題ですね。
本作もボリュームは少ないのですが、
これだけなら他のADVにも当てはまります。
ただ、本作は分割して発売されてますからね。
実際の量以上に、何か物足りなく感じてしまいました。
ストーリーだけが突出したADVをどこまで評価しうるのか、
結局はそこにかかってくるんでしょう。
これは今のADVにもよくある問題かと思います。
ストーリーの良さ=ゲームの価値ならば、
本作は当時最高クラスのADVだと感じるだろうし、
他の要素も求めれば良作もありえるって感じになるのではないでしょうか。
もう一つ言うならば、私は自分に合った=傑作とは考えません。
本作は主観的には凄く好きな作品だったのですが、
子供へのADVへの普及という観点からの意義は認められるものの、
新しい何か、ゲームの発展を感じさせてくれるようなものがなかったわけで、
それ故に傑作とは判断できなかったのです。
(っていうか、無理に考えようとしたら、
上記のようにマイナス成長への要因が出てきてしまいましたしw)
まぁ、面倒臭いことを抜きにすれば、単純に面白いゲームではありますからね。
機会があればやってもらいたいものですね。
ランク:A-(名作)

関連するタグ ADV /コマンド選択式 /ディスクシステム /
消えた世界と月と少女 少女グラフィティ 少女と年の差、ふたまわり。
1988年にディスクシステム用として任天堂から発売されました。
正確には前編と後編の2回に分けての発売だったわけですが、
発売日は1ヶ月しか違わない上に1本の値段は通常の半額なので、
両方で1本と考えて良いかと思われます。

<概要>
崖の傍で倒れていた主人公は、「天地」という男性の声で目を覚まし、
介抱を受け意識を取り戻す。
その後、自らが倒れていた現場へ出会った少女「橘あゆみ」から、
自分が「空木探偵事務所に所属する探偵助手」であること、
そして『突然死を遂げた資産家・綾城家の当主「綾城キク」の死』について
調査を依頼されていたことを知らされた彼は、
自分の名前を思い出した後「明神村」にある「綾城家」に向かう。
うらびれた寒村、明神村一の資産家である綾城家には
「死者が蘇り綾城家に仇なす者を殺す」という奇妙な伝承が代々、
言い伝えられていた。
当代当主であったキクの死によって村全体に不穏な気配が立ち込める中、
ついに事件は綾城家の関係者を巻き込んだ連続殺人事件に発展し、
キクの残した財産を得ようと目論んでいた人間たちが
次々と死を遂げていく・・・
ジャンルはコマンド選択式のADVになります。
<ストーリー>
ミステリーといっても、中にはいろんなジャンルがあるわけでして。
当然好きなジャンルもあれば、苦手なジャンルもあるでしょう。
私なんかは、ハードボイルドの良さがイマイチ分かりませんし。
では何が好きなんだって聞かれたら、
やっぱり乱歩や横溝といった作品になるんだと思います。
ところで、80年代は推理ADVの盛んな時期でした。
しかしよく考えてみると、横溝風のストーリーのゲームってなかったんですよ。
当時の一番好きな推理ADVは、やっぱり堀井さんの3部作だったわけですが、
これは80年代に流行していた社会派になりますしね。
つまり、推理ゲームは一杯あれど、
私のストライクゾーンど真ん中な作品はなかったのです。
そして、そこに出てきたのが本作です。
これはもう、モロに好みでしたね。
横溝作品みたいな雰囲気が伝わってきて、これだよこれって思いましたもん。
雰囲気だけじゃなく、物語としての出来も良かったですしね。
この作品が今でも語り継がれる最大の理由として、
ストーリーの存在は絶対に外せないでしょう。
それだけ素晴らしいストーリーでした。
もっとも、本作がうけた理由は、それだけではないのでしょう。
当時はゲームをプレイする人、特にファミコンユーザーは子供ばかりでしたし、
RPGでもそうですが主人公と自分を同化させる傾向も強かったと思います。
そうなると、いかにも推理小説をゲーム化したような作品だと、
主人公がオッサンばかりで年齢が高くなってしまうのです。
子供の視点からオッサンの主人公に感情移入しようと思っても、
どうしても無理な部分もありますし、違和感も生じるでしょう。
私は『京都龍の寺殺人事件』とかも大好きでしたが、
どう考えても小学生の間で大ヒットって想像できないですからね。
ADVをファミコンで普及させるには、
子供が普通に入っていきやすいゲームの存在が何より必要だったのです。
その点、本作の主人公は10代の子供でした。
なので、これまでのオッサンらよりも感情移入も容易だったと言えるでしょう。
ストーリーも無駄に複雑になっていませんし、
プレイしていて、すんなり入っていけるんですね。
他の推理ADVと本作におけるこの差は、
実は結構大きかったのではないでしょうか。
この頃の私は、推理小説ではアガサ・クリスティとか、
エドガー・アラン・ポーとか有名な海外作家の翻訳物にはまりだした頃で、
この違いは、あまり感じられなかったかと思います。
でも、周りの評価から鑑みるに、
やっぱりこの部分が大きかったんだろうなと思うんですよね。
かように、本作の最大の魅力はストーリーにあったと言えるでしょう。
単に私好みっていう側面も否定できませんが、
個人的には80年代でもトップクラスの出来だと思います。
<ゲームデザイン他>
じゃあゲームとしてもトップクラスかというと、
それが必ずしもそうでないわけでして。
ゲームっていうのはいろんな要素から構成されていますからね。
ストーリーだけ良くても、必ずしも傑作とは言い切れません。
本作の場合、ストーリー以外の面では特徴がないんですよね。
グラフィックもサウンドもゲーム性も水準以上はキープしていますが、
それ以上に長所と言えるほどには優れていませんでした。
いや、ゲーム機の推理物はまだ少なかったので、
あまり比較対象もないんですけどね。
PCのADVの名作と呼べる物と比べた場合に、
それでも尚こっちが優れているとまでのものはなかったように思います。
システムはオーソドックスなコマンド選択式のADVでした。
これもさすが任天堂というか、かなり上手く作られているとは思います。
でも、長所と言えるほどには至ってないわけでして。
もう少し説明しますと、本作は不要なコマンドを省くような配慮がなされ、
難易度が下げられています。
本作はコマンド選択以外の部分で、
例えば情報を入力するなど考えさせる要素が含まれていますので、
総合でのゲーム性は十分に確保しています。
全体でのバランスが良いから、ゲームとして楽しいわけですね。
だから本作に関しては良かったと言えるのですが、
ここで不要なコマンドを省略するという方向性が芽生えたことも事実です。
以降のファミコンのADVは、正解以外のコマンドを減らす方向に変化していき、
中には正解のコマンド以外登場しない作品も登場することで、
ゲームのボリューム不足に一層の拍車をかけてしまいます。
また、このようなコマンド数の減少傾向は、
80年代のPCゲーのコマンド選択式のように考えてプレイするのではなく、
コマンド総当たりを前提とした構造への変化につながっていきます。
これは読みやすく子供でもクリアできる点では良いのですが、
ADVのゲーム性という観点からは確実に退化と言えるでしょう。
本作のように代替要素があれば、まだマシなんですけどね。
以上から、本作自体は良かったと言えるものの、本作の後に及ぼした影響は、
ADV業界にとってはマイナスだったように思うわけで、
もちろん安易に模倣した後続の作品に問題があるのであり、
本作は悪くないのですが、少し複雑な気持ちにはなってしまいます。
それに加えてボリュームの問題ですね。
本作もボリュームは少ないのですが、
これだけなら他のADVにも当てはまります。
ただ、本作は分割して発売されてますからね。
実際の量以上に、何か物足りなく感じてしまいました。
<感想・総合>
ストーリーだけが突出したADVをどこまで評価しうるのか、
結局はそこにかかってくるんでしょう。
これは今のADVにもよくある問題かと思います。
ストーリーの良さ=ゲームの価値ならば、
本作は当時最高クラスのADVだと感じるだろうし、
他の要素も求めれば良作もありえるって感じになるのではないでしょうか。
もう一つ言うならば、私は自分に合った=傑作とは考えません。
本作は主観的には凄く好きな作品だったのですが、
子供へのADVへの普及という観点からの意義は認められるものの、
新しい何か、ゲームの発展を感じさせてくれるようなものがなかったわけで、
それ故に傑作とは判断できなかったのです。
(っていうか、無理に考えようとしたら、
上記のようにマイナス成長への要因が出てきてしまいましたしw)
まぁ、面倒臭いことを抜きにすれば、単純に面白いゲームではありますからね。
機会があればやってもらいたいものですね。
ランク:A-(名作)

関連するタグ ADV /コマンド選択式 /ディスクシステム /
消えた世界と月と少女 少女グラフィティ 少女と年の差、ふたまわり。
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2014-08-06